Wall Street Journal で珍しくゲームの紹介をしていたので、プレイしてみました(注!以下の引用記事と、続く文章にはネタバレが含まれますので、先入観なしでプレイしてみたい方はこちらからダウンロードしてみて下さい):
■ The Game of Life (Wall Street Journal)
紹介されているのは"Passage"というゲーム。Windows 版だと約500KBしかないファイルで、ごくごく単純な内容です。プレーヤーは一人の男性となり、人生を体験するという趣旨で、基本的にカーソルを使って上下左右に動かすだけでOK。
こちらがスタートしたばかりの画面。左端にいるのが自分のキャラで、目の前に人生を象徴する「道(Passage)」が広がっています。画面に表示されるのは世界の一部分だけで、障害物がなければ上下左右に移動することができます。
ゲームの制限時間は5分間。ただし5分の間は、何をしても、しなくてもゲームオーバーになることはありません。5分が過ぎると、キャラクターが「死」を迎えてゲームオーバーとなります。右上に表示されている数字は獲得したスコアで、いちおう高いスコアを目指すのがゲームの目的なのですが、後述するようにこのゲームの意図するものは別のところにあります。
で、スタートしてすぐに出会うのが「恋人」。上のスクリーンショットで、中央付近に棒のようなものが表示されていると思いますが、近くに寄ってみるとこんな感じ:
このキャラクターにぶつかると、二人は恋に落ちたことになり、以後一生を共にします。ただし「恋人=家族」を連れていると、障害物を避けるのが難しくなり、歩ける道が制限されるというデメリットも。
ここまで説明して、ようやく「何をすればスコアが上がるか」を解説できるのですが、その方法は以下の2つとなります:
- 歩く(上下左右の方向は問われないので、とにかくキャラを動かす)
- 世界の中に転がっている「宝箱」を見つけ、それを開ける(キャラをぶつけると自動的に開きます)
ただし、それぞれの方法には追加の条件が。1.の「歩く」ですが、「恋人」を連れているとスコアが2倍になります。また2.の「宝箱を開ける」では、中に入っているのが必ずしも「宝」だというわけではありません。中にはハズレ(黒煙が上がる)も混ざっていて、スコアが得られない時があります。
さて、ここまでならまだネタバレにはならないかもしれません。ゲームをやってみたくなった、という方は以下を読まずにプレイしてみて下さい。
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ではなぜ"Passage"が人生を凝縮しているのか、という点ですが。
まず上記の通り、迷いながらでも歩いてみることが「得点」となります。パートナーと共に人生を歩むか、それとも一人で進むかは自分の選択次第で、「家族」がいなければ「宝箱」を探しやすくなります。時には障害物のすぐ向こう側に宝箱が見えているのに、家族を連れているために取りに行けない、なんてことも……この辺は、実際の人生でも「家族がいるから選べる選択肢がせばまる」ことを象徴しているわけですね。
実は「世界」の一番上には何の障害物もなく、スタートしてカーソルキーを右に押し続ければ、スイスイ前に進むことができます。しかしこの道には、宝箱はいっさい置いてありません。楽な道を(パートナーと一緒に、あるいは一人で)進んでそれなりに実りある人生を歩むか、あれこれ試行錯誤しながら「宝」を探してみるか、これまた人生と同じような選択ができるようになっています。
また画面の表示方法にも一工夫が。前掲のスクリーンショットでは、プレーヤーは左端に表示されていますが、時間が経過すると共にその位置が右側にずれていきます。
上の画面はプレイ時間の半ばを過ぎたあたり、つまり人生で言えば中年ということになります。キャラの位置が中央より右側に移動していると共に、その姿にも変化(頭がハゲている!)が現れていますね。実はこのゲームを作成した Jason Rohrer さんご自身が、30を過ぎて頭髪が抜けてきたそうで、その辺りも反映されているのかも……。
で、5分が経過するころには自分のキャラがずっと右に表示されることとなります。そして右端に達してしまうとゲームオーバー。墓石らしきものが表示されて、キャラが死を迎えたことが示されます。「パートナーを連れていた場合はどうなるの?」という点ですが、こればかりは説明せずに、実際にプレイしてもらった方がいいかもしれません。WSJの記事では「多くのプレイヤーが泣いた」と報じていますが、泣くというのは言い過ぎにしても、かなりつらい演出が用意されています。
「パートナーがいなければ人生には意味がないのか?」「パートナーは人生の障害なのか?」など、"Passage"のステレオタイプ的な部分を非難することはできるでしょう。しかし、こんな小さなゲームに人生のエッセンスを込められたことについては、素直に拍手を贈りたいと思います。これはゲームというより、5分間のショートフィルムというか、アートのようなものだと捉えた方がいいかもしれません。
「これをプレイして人生を考え直した」などということはなかったですが、僕自身は「パートナーあり」「なし」そしてまた「パートナーあり」と、3回立て続けにプレイしてしまいました。「パートナーあり」の場合の、死を迎える直前のキャラの表情(実際には表情なんてものは描かれていないのですが)には、感情移入してしまう人が多いのではないかと思います。何十MBもあるようなファイルでもないですし、たった5分間で終わりますから、週末で時間のある方はぜひ。
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