海外ではトリビューンの破綻、国内でも朝日新聞の経営悪化ということで、ジャーナリズムの先行きを危ぶむ声が出ているのはご存知の通り。ニュースだけでなく各種コンテンツは無料が当然、という時代にどうやって収入を得れば良いのか、様々なアイデアが試されているところですよね。たまたま雑誌 COURRiER Japon の2009年1月号を読んでいたら、こんなアイデアもあることが紹介されていました:
■ ジャーナリズムの未来は「寄付」にあり:テーマも経費も募集します!“読者参加型”の調査報道 (『クーリエ・ジャポン』2009年1月号 94ページ)
ジャーナリズムはそのあり方を変えつつある。読者が本当に関心を持っていることをきちんと伝えるため、調査を行う前にテーマを読者から募るという手法が最新流行のようだ。“プリペイドカード方式”の記事の時代がやってきたといってもいいかもしれない。記者は、読者が指示する方向へと解き放たれた猟犬のように走っていくのである。
(中略)
そうした試みのひとつであるスポットUSは、サンフランシスコ一帯から生まれたカリフォルニアのウェブサイトだ。彼らが実践しているのは「コミュニティー・ファンデッド・ジャーナリズム(コミュニティーが資金を提供する報道)」というアイデア。この手法は、調査対象に関する意見を募って調査を実施するのに値するテーマを選び、記事作成のためにかかる経費を出資してくれるよう一般読者に呼びかけるものだ。
(中略)
スポットUSの“特派員”は、寄付金が経費の見積もり額に達すると、資料やインタビューや人々のコメントを集め始める。そしてその記事はウェブサイト上で発表されることになる。今まで取材資金の募集が行われ、記事になったテーマには、「どうしたら企業を犠牲にすることなく地球温暖化を抑制できるか(2500ドル)」、「サンフランシスコ市長選(2500ドル)」、「カリフォルニア沿岸部でのエタノール利用に関する一連の調査(2600ドル)」などがある。
とのこと。「スポットUS」の正式名称は Spot.Us で、TechCrunch でも紹介がありました:
■ Spot.Usによる市民出資によるコミュニティ・ジャーナリズムの試み (TechCrunch Japanese)
「欲しいと思うテーマについて、お金を払って調査してもらうモデル」と捉えれば、調査会社にプロジェクトを依頼することと同じと考えられるでしょうか。言われてみれば、現在の新聞モデルでは「お金を払うこと」と「提供されるコンテンツ」には直接的なつながりはなく、レストランに入って「3,000円払うから、何でもいいから持ってきてよ」と言っているような状況です。もちろん好きなモノだけ食べていればメタボになってしまいますから、シェフにお任せするというモデルではバランスの取れた食事を取れるというメリットもあるでしょうが、「シェフが恣意的に食材を選ぶことはない」という信頼感が欠かせません。現在のようにマスメディアへの不信感が高まっている時代には、「こういう料理をしてよ、そしたらかかったお金を払うから」というモデルの方が受け入れられやすいのではないでしょうか。
そんな「オンデマンド型」とでも呼ぶべきジャーナリズム(前述の記事内では「コミュニティー・ファンデッド・ジャーナリズム(Community Funded Journalism)」と呼ばれていましたが)、少なくとも実験には値すると思います。また Spot.Us では、製作された記事はウェブ上で公開し、よい記事だと判断されれば「本物の」新聞や雑誌が掲載権を購入してくれることを想定しているそうですが、そうなれば「出資者」に掲載権販売で得られた利益を配分するというモデルも可能かもしれません。どっかのコンテンツ制作ファンドみたいな話ですが、「自分が知りたい」と思うテーマだけでなく、「他人もこれを知りたいだろう(=掲載権を買いたいというメディアが登場するだろう)」と思うテーマにも出資が行われるようになれば、より世の人々が欲するニュースへの資金提供が進むのではないでしょうか。
もちろん現実はそう簡単には進まないと思いますが(作成されたコンテンツが無料公開されてしまうのであれば、興味があるけど誰かがお金を払うのを待とうという「フリーライダー」の問題も出てくるでしょうし)、「ニュースに出資する」という発想、定着したら面白いことになるのではと期待しています。
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