図書室から本を一掃する。なんて酷い学校だ、あるいは予算がないのかと思われるかもしれませんが――大体予想はついてますよね。その通り、フィジカルな紙の本をなくして、デジタルコンテンツと閲覧端末だけにしてしまうという学校が米マサチューセッツ州に登場したそうです:
■ School prepares for book-free library (Geeks Are Sexy)
もととなったボストン・グローブ紙の記事がこちら:
■ Welcome to the library. Say goodbye to the books. (Boston.com)
この学校は、マサチューセッツ州にある Cushing Academy (@CushingAcademy)という私立中等学校(プレップスクール)。これまであった蔵書(約2万冊)を一掃し、ネット上からアクセスできるデジタルコンテンツへと転換したそうです。従って「本」を読む場合には、校内の端末を使うか、あるいは自宅や手元にあるネット接続できるPC/電子ブックリーダーを活用するということになるようです。また Amazon の Kindle と、ソニーの電子ブックリーダーを合わせて18台購入しており、希望者にはこれを貸し出すという仕組み。
ちなみに処分された蔵書は捨てられたのではなく、地元の学校や図書館に寄付されたとのこと(一安心ですね)。さらに本がなくなった「図書室」はといえば、今後は「ラーニングセンター」という名前になり、ラップトップで静かに自習するための場所になるそうです。このラーニングセンターには、ラップトップの使用が念頭に置かれた個人用学習スペース、大型テレビ、さらにはカプチーノマシーンなども置かれているそうで、なかなかゴージャスな施設になっている様子。
しかし全米広しと言えども、図書室から本を一掃してしまった学校は初めてだそうです。これをノリノリで進めているのは同校の校長、James Tracy さんなのですが、やはり司書の方々を中心に批判している人も多いとのこと。校長は「図書室で本を借りるなんて時代遅れだ」と主張しているのに対し、歴史の先生が「ガジェット好きのバケモノ」と批判するなど、なかなか大変な事態になっているようです。ただ面白いのは、当事者ある生徒たちの意見:
Tia Alliy, a 16-year-old junior, said she visits the library nearly every day, but only once looked for a book in the stacks. She’s not alone. School officials said when they checked library records one day last spring only 48 books had been checked out, and 30 of those were children’s books.
“When you hear the word ‘library,’ you think of books,’’ Alliy said. “But very few students actually read them. And the more we use e-books, the fewer books we have to carry around.’’
Jemmel Billingslea, an 18-year-old senior, thought about the prospect of a school without books. It didn’t bother him.
“It’s a little strange,’’ he said. “But this is the future.’’
3年生で16歳の Tia Alliy は、毎日図書室に通っていたが、本棚を見たのは一度だけだったそうだ。そのような生徒は彼女だけではない。学校関係者によると、昨年春のある日の記録を確認したところ、貸し出されていたのは48冊だけで、うち30冊が子供向けの本だった。
「図書室って言葉を聞くと、本を思い浮かべるけど、実際に読んでいる生徒はほとんどいませんでした。それに電子ブックを使うようになればなるほど、持ち運ぶ本は減っていきます」と Alliy は言う。
4年生で18歳の Jemmel Billingslea は、本のない学校という将来を特に気にしてはいなかった。
「ちょっと奇妙かもしれないけれど、これが未来なんだ。」
確かにフィジカルな本が無くなってうろたえるのは、それにノスタルジーを感じる大人たちだけなのかもしれません。その意味では、校長が思いきった行動に出たというのもある意味で意義のあることだったのでしょう。またこれが行われたのはプレップスクールの図書室ということで、デジタルコンテンツとデジタル端末に置き換えても問題が生まれにくい状況だったということも考えられると思います。
ただ個人的な感情としては、やはり「図書館から本をなくす」という発想には抵抗感があります。しかしコンテンツを利用しようと思えば利用できるシステムが用意されているのですから、それはただのノスタルジーだと言われてしまえばそれまででしょう。それにネットからアクセスできるのであれば、これまでよりコンテンツの利用が進むかもしれないし――うーん、このケースはどこかで調査対象にしてもらって、1年後ぐらいの結果が見てみたいと思います。そしてこの動きに続く学校が出てくるのか、あるいは公立図書館などにも派生する可能性があるのか等々、様々な余波が生まれてくるテーマなのではないでしょうか。
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