ソーシャルメディアの普及により、ごく普通の人が他人に大きな影響を与えるという状況が頻繁に見られるようになりました。企業はこの状況をマーケティングに活用できないかと模索しているわけですが、そうなると出てくるのは、「誰がどの程度の影響力を持っているのかを数値で示す」という発想。この発想は最近「ソーシャルスコアリング(Socia Scoring)」という言葉で呼ばれるようになっていて、代表的なサービスにKloutがあります。前置きが長くなりましたが、今回ご紹介する"Return On Influence: The Revolutionary Power of Klout, Social Scoring, and Influence Marketing"はそのKloutを中心に、ソーシャルスコアリングの可能性と問題について解説した一冊です。
とあっさり書いてしまったものの、本書はかなりクセのある一冊だと思います。ネットでネタにされる「私の戦闘力は○○万です」よろしく、Klout(あるいは他のソーシャルスコアリングサービス)のスコアでその人の重要度が評価される世界があることを紹介。ずばり「Kloutスコアを上げるには!」というような立ち回り方を指南しつつ、その限界についても容赦なく批判する……しかし最終的には「綺麗事言わないで、利用するところは利用しないと」というしたたかさを見せる。「数じゃなくて中身が重要、というのは建前。実際には数が物を言う場合も多いし、人々が『勘違い』してくれる効果を狙うのもアリ」というような大胆発言まで飛び出す本書は、間違いなく賛否両論があるでしょう。
しかし本書はブームに乗っただけの、いい加減な本というわけでもありません。前半は「ネット上の影響力とは何か、それは現実における影響力とはどう違うのか」を考察し、ロバート・チャルディーニのベストセラー『影響力の武器』なども言及されています。では著者はどんな立場を取っているのかというと、簡単に言えば、「Kloutという仕組みはまだ成熟しておらず、限界もあるが、それがソーシャルメディア時代のページランクになり得るものである以上、善悪の判断は抜きにしてその利用法を考えなければならない」というものになるでしょうか。例えば「激論と大騒動(Controversy and Turmoil)」と題された第8章では、Kloutの起業ストーリーを絡め、「一般人のソーシャルメディア上の影響力を測定する」というKloutの概念が巻き起こした論争について解説。Kloutスコアの限界と問題点についてかなり詳しく指摘しています。と言いつつその後の第10章で「Kloutスコアを上げるには(How to Increase Your Klout Score)」などというテーマが登場し、上げてるのか下げてるのかよく分かりません(笑)。
ただ「使えるものは使ってしまえ」という点については、賛同する方も多いのではないでしょうか。Klout値を意図的に上げることができて、それによって注目が集まるなら上げてしまえばいい――しかしその後の関係が続くかどうかは、どれだけ良いコンテンツが提供できるかどうかということで、本書では一章を割いてコンテンツのあり方や運用法について考察しています。この辺のバランス感覚は、綺麗事や抽象論だけで実務には使えない「入門書」よりよっぽど良いでしょう。
第11章「ソーシャルスコアリングの未来(The Future of Social Scoring)」には、Klout創業者のジョー・フェルナンデスや、競合サービス"PeerIndex"創業者のアジーム・アザール、また著名ブロガーのロバート・スコーブルなど、数々の関係者から集められた「ソーシャルスコアリングの可能性」に対するコメントが紹介されています。まだ日本では知名度の低いKlout、そしてソーシャルスコアリングの概念ですが、 この辺りを押さえておきたいという方にとっては、読んで損のない一冊だと思います。
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