『イノベーションのジレンマ』でおなじみのクリステンセン氏がBusiness Weekの取材に応え、Apple Computerの将来についてコメントしてます:
How Apple Could Mess Up, Again (Business Week)
AppleはかつてPC事業で犯したのと同じ過ちを、iPodとiTunesの事業で犯すのではないかという内容。プロプライエタリな技術の限界を警告し、アーキテクチャのオープン化を薦めています。けどAppleの社内文化は変えがたいだろうから、結局プロプライエタリな先端技術をどうにかして売り込むしかできないだろう--という悲観的な見通しをしています(Jobsが成功しているのだって、そういった文化を変えるのではなくて自社技術を上手く事業化できたからでしょ?という議論)。
一方、1月10日の日経産業新聞の解説によれば、「店頭で品薄が続く『iPodナノ』は使い勝手の良さや消費者の飢餓感をあおる戦略で当初の価格水準をほぼ維持」しているとのことです(第11面の記事「ねだんの力学--決めるのは『お客様』より)。iPodに限って言えば、若者に好評なCMを放映するなどマーケティング面での成功も指摘されるべきでしょう。しばらくはブランド力というもう1つの力により、Appleの好調は持続するように思えます。
またBusiness Weekの記事を受けて、Nicholas CarrはiPodがデジタル・ポータブル・プレーヤー市場で70%のシェアを取っていることを指摘した上で、こんなコメントをしています:
Apple today is in the driver's seat in the digital music business in a way that it never was in the PC business, and it will likely announce products and partnerships tomorrow that will extend its lead in video as well. If Apple's rivals are going to overtake it, they're going to have to come up with a better strategy than waiting for history to repeat itself.
(Rough Type: Predicting Apple's fall)
しかしiTMSの競合として、Microsoftが提携するMTVの音楽配信サービス"Urge"が登場したり(参考記事:CNET Japan「MTV、新音楽サービス『Urge』をアピール--iTunesに強敵出現か」)、オープンソースのソフトが登場するなど(参考記事:CNET Japan「iTunesに挑むオープンソースソフトウェア『Songbird』」)、Appleに対抗する勢力が徐々に見えつつあります。まだ彼らがiTunes/iTMSを凌駕すると決まったわけではないですが、圧倒的シェアを持っていることが必ずしも安泰を約束するものではありません。事実、HPはAppleではなくRealNetworksと提携する姿勢を打ち出しています(参考記事:CNET Japan「HP、iTunesを捨ててリアルのRhapsodyに乗り換え」)。
Appleが歴史を繰り返してしまうのか、はたまた音楽配信事業での圧倒的な市場シェアをレバレッジに、他の分野に進出することができるのか。答えのヒントは、今日のMacworld Conference & Expoに秘められているかもしれません。
<追記 1/11>
サイボウズの安田さんも、このテーマについて分析をされていますので、合わせてご参照下さい:
iPod/iTunes が直面する「三つ巴の戦い」(経営企画室 調査日報)
結論の部分で、安田さんは
結局は「誰が最もユーザーを幸せにできるか?」ということが勝負の決め手であり、他の勢力が「Apple は閉鎖的、排他的」と言おうとも、実際今のところ私は Apple の iPod を使いながらそれによって何か不利益を被っているような感覚はありません。
しかしそういったものが今後表面化することがあるとすれば、ユーザーが「もっとこうしたい、ああしたい」というニーズを持つようになったときに、 Apple 一社でそれをすべて実現できるかどうか、継続的によりユーザーに喜ばれるサービスを提供し続けることができるかどうか、というところで問われることになっ てくるのではないかと思います。
とコメントされています。まさにその通りで、Appleに限らず1つの企業で実現できることには限界があり、それを乗り切るために「アライアンスの提携」という戦略を取るのか、「オープンソース化」に踏み切るのか、はたまた有効な手立てを打てずに歴史を繰り返してしまうのかという局面にAppleは立たされるのだと思います。
> AppleはかつてPC事業で犯したのと同じ過ちを、iPodとiTunesの事業で犯すのではないか
私もこの前同じことを考えました。
経営企画室 調査日報: iPod/iTunes が直面する「三つ巴の戦い」
http://blog.cybozu.net/tomoy/2005/12/ipoditunes__491c.html
MS、RealNetworks などが Apple を「閉鎖的」と揶揄し、ハードウェア(携帯型プレーヤー)のメーカーを取り込もうとしている様子はまさに「Macintosh 対 IBM PC/AT および互換機」のときと同じ構図だなぁ、と。
投稿情報: tomoy | 2006/01/11 10:50
ちょっと業界構造論だけで捉えすぎですかねぇ、クリステンセン。ポーターと同種の間違いを緩やかに犯している気がします。
投稿情報: SW | 2006/01/11 14:18
なんかHBSでの生徒とのやり取りが書かれてあって、アメリカで受けた授業を思い出して冷や汗が出ました(笑)。それだけ座学を思わせるというか、良くも悪くも、理論から物事を捉えすぎのような印象は確かに受けますね。
しかも「誰もAppleを変えることはできなかっただろ」って言い切ってしまうのも暴言のような。組織論の教授たちが読んだら怒り出しそう。
Rough Typeの記事に続くコメントにあるように、PC/OS事業のアナロジーで音楽関連市場を捉えるのにも限界があるでしょう。また不勉強なので深入りは避けますが、iPod/iTMSは音楽という市場を超えて情報端末という枠で捉えるべき、という議論に説得力があるように思えます。
投稿情報: アキヒト | 2006/01/11 15:07