最近『iPhone 衝撃のビジネスモデル』と『フューチャリスト宣言』を同時に手に入れ、一緒に読んでいます。そもそも各々の本が扱っているテーマは違うし、狙って一緒に買ったわけではないのですが、「WEB2.0的なもの」をどう捉えるかについて両者の違いが際立っていて面白い。まだ消化不良ですが、ちょっと思ったことがあるので生煮えエントリを。
『フューチャリスト宣言』の中に、こんな一節があります:
茂木: (中略)情報というのはもともと自らが流通したがるもの。
梅田: Information wants to be free.
茂木: そのような、情報のあるべき姿の実現を望みます。一方、もちろんインフォメーションにはパワーがあるわけで、自分だけがあるインフォメーションを持っていることは自らの権威につながる。日本の学者はそれによって生きてきたわけです。ヨーロッパからいち早く知の先端を輸入する。それが自分たちの権威の源泉になる。それによって自分たちが獲得した人事権、学位授与権をもとに、そのサイクルを再生産しつづける。その世界を理想とするのか、それともすべての人に公平に開かれた世界を理想とするのか、という人間観の差というものは大きい。
単純化すると誤解を招くかもしれませんが、『フューチャリスト宣言』にはこのような「情報を自由に(≒無料で)共有すること」が理想として書かれているように思います。まさしく"Information wants to be free. (情報は自由/無料になりたがるものだ)"という言葉が象徴しているように。
この点については、ちょっと疑問を覚えます。確かに天気予報やグルメ情報など、無料で流通して欲しい/させても良い情報はありますが、有料であっても良い情報/有料であるべき情報というのもあるのではないでしょうか。また、コンテンツ流通者が有料/無料を選べるのが正しい世界ではないでしょうか(原理主義的に「情報は無料であるべきだ!」と唱えるのではなく)。
一方『iPhone~』では、日本の携帯電話システムというものが(少なくとも今のところは)いかに課金に適したシステムかを解説しています。例えば「着メロ」などといったものの代金が、キャリアからの請求に一本化させてしまえば流通させる側も簡単だし、ユーザー側も支払いやすいと。その対比としてインターネットの世界では、非常に課金というものがしにくいシステムであり、文化としても「無料で手に入る」という感覚が染み付いてしまっていることが論じられています。結局のところ、「インターネットでは情報は無料」というのは、理想や思想ではなく「システムの構造がそうだったから」という点も大きいのではないでしょうか。
iTunes というモデルが(インターネット上での)音楽データへの課金を可能にしたように、例えばマイクロペイメントのようなシステムが確立されれば、ネット上での情報への課金はより簡単に行えるようになるでしょう(コンテンツを流通させる側にとっても、消費する側にとっても)。そんな世界では、「コンテンツは無料のものもあれば、有料のものもある」という思想も生まれてくるのではないでしょうか。そして売りたいものは売る(売れるかどうかは別の議論)、無料のものは無料、という選択が様々な場面に応じて切り替えられるのが、よりよい状況なのではないかなと思います。
……そもそも「本を出して売る」というのは、コンテンツからお金を得る優れた/確立されたシステムであるわけで。それを利用しながら「情報は無料で共有されるべきだ!」という議論を聞かされるのもなんだかなぁ、と感じた次第でした。もっとちゃんとした感想は後日するかも。
> そのサイクルを再生産しつづける
ここがすでに「タダ」ではないと思います。
せまく「金銭授受がない」であれば無料ですが、茂木さんのように学者さんたちは受けるだけじゃなくて、自ら差し出すこともあるわけで(帳簿の合わない人もいるだろうけど)。受け取るだけの学者がいたら、糾弾されるでしょ。
情報であっても原理は交換、交易なわけですから。彼らにしても無料と金銭授受の有無とはイコールではないことは気づいているはずですけど。
投稿情報: Kazariya | 2007/05/24 13:59
Kazariya さん、コメントありがとうございます。
ちょっと僕の説明が悪かったかもしれませんが、引用部分で茂木さんが「そのサイクルを再生産しつづける」としている部分は、「開かれていない世界(従って情報がタダではない世界)」の説明となっています。
> 情報であっても原理は交換、交易なわけですから。
この点は重要ですね。「無料」であってもいいけど、それに対する対価を何らかの形で得ているはずですから。その対価が「お金」という形であって欲しいという欲求も認めて良いのでは、と思います。
投稿情報: アキヒト | 2007/05/25 18:15