先週の日曜日は青梅マラソンがある予定だったのですが、ご存知の通りの積雪で中止。せっかく娘と応援に行こうと思っていたのに、残念な結果となってしまいました。
で、翌日書店で手に取ったのが『東京マラソン』という新書。最近のブームに乗って、様々な出版社から新書が出版されているわけですが、こちらはベースボール・マガジン社による新書シリーズの中の一冊。実は元・青梅市民としては、東京マラソンには少なからぬ敵意を抱いているのですが(参考記事)、だからといって避けていては敵に勝つ(?)ことはできません。ということで、興味半分で手を伸ばした次第。
結論から言って、非常に面白い本でした。著者の遠藤雅彦さんは、教育庁で東京マラソン担当の参事をされた方。つまり実務の中心におられた方が、直々に東京マラソンの裏側を語ったのが本書です。内容は多岐にわたり、参加者数の予想や参加料の設定、あのようなコースが設定された経緯(なんと Google Earth まで使用されたとのこと!)、変わったところでは仮装ランナーをどうするか?といったところまで詳しく解説されています。従って東京マラソンを題材に、前例のないイベントを開催する際の難しさと面白さ、そして東京という街がどんな場所なのかまでを考えることができる一冊と言えるでしょう。
例えば以下は、コース設定に関する部分。実は(僕が知らなかっただけですが)マラソンコースを公認してもらう場合、次のようなルールがあるそうです:
マラソンコースが公認されるためには、距離が正確に計測されていることに加え、「エレベーション」と「セパレーション」という2つの基準を守る必要があります。
エレベーションとは、スタート地点とフィニッシュ地点の標高差が、レース距離の1000分の1以内でなければならないというルール。マラソンのレース距離は42.195kmですから、標高差が42.195m以内でなければなりません。これは、記録が出やすい下り坂ばかりのコースを防ぐための基準です。
セパレーションは、スタート地点を中心に、レース距離の2分の1を半径とした円の中に、フィニッシュ地点がなければいけないというルールです。これは、コース全体が追い風になることがないようにするための基準なのです。
言われてみればその通りのルールなのですが、これがあるために「単に走りやすそうなところを走らせれば良い」ということにはならないわけですね。さらに事務局には、次のような使命が課せられます:
ルールを満たし、交通規制の影響をなるべく軽くしたうえで、観光各所をめぐるコースにするというのが事務局に与えられたコース設計上の課題でした。7時間も道路を封鎖するのですから、観光客誘致などでそれに見合う経済効果を上げることが求められるのは当然です。もちろん、エリートランナーの大会として記録が出やすい高速コースであることも重要です。
これだけでなく、市民ランナーの走りやすさ、警備のしやすさなどが考慮されて最終的なコースが決まるのですが、この制約の中でよく答えが出せたなぁと感心します。また当然ながら問題はコース設定だけではなく、こんな数値の算出が必要だったとのこと:
3万人が走るマラソンで、バナナを何本用意すればいいのか、水をペットボトルに何本用意したらいいのか。これもなかなか難しい問題です。決定しなければならない時期が近づいても、実際にどれだけの量が必要になるのか、まるで見当がつきませんでした。
3万人が走りますから、1人が1本ずつ水を飲むには3万本が必要になります。それはわかるのですが、1人が何回飲むのかというと、これがわかりません。給水ポイントが15ヵ所あるので、全員がすべての給水ポイントで飲むことはないでしょうが、1回に2本飲む人はいそうです。いろいろ考えてみても、自信を持てる数字は出てきませんでした。
バナナがなぜ出てくるの?という点ですが、市民マラソンではランナーが途中で休憩し、食べ物を口に入れるのは普通の話なわけですね。東京マラソンではバナナ以外にパンやチョコレート、人形焼きが用意されたとのことですが、その数を決めなければならなかったと。前述の「エレベーションルール」のように、言われてみれば当り前のことなのですが、なにしろ僕はマラソンを企画したことがないので(当然ですね)、次から次へと課題が持ち上がる様を追体験しているような気分にさせられました。
ということで、マラソンに興味が無くても、イベントを企画している/したことがある方々や、東京都心で働いている方々は思わず読み進んでしまうと思います(WEB系の仕事をされている方には、「ランナーズアップデイトサービス」の話等に興味を引かれると思いますよ)。そして何らかの運営に携った経験のある方なら、「おわりに」のスタートシーンの描写に心を動かされてしまうこと請け合い。ちなみに「東京マラソン2008」は2月17日開催なので、この本を読んでおくと「オレなら違うコースにしたな」とか「今の給水ポイントの設置は見事!」などなど非常に細かい楽しみ方もできるはず。
まぁ本音を言えば、東京マラソンの日も雪になればいいのに青梅マラソンも忘れないで欲しい、というところですが……。
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