これも特に結論がある記事ではないのですが、面白かったので備忘録的に。
まずは前提。以下は先日発売された週刊ダイヤモンドのFacebook特集号からの抜粋:
昨年11月上旬、米グーグルのエリック・シュミットCEOは、全社員にじつに景気のいいメールを流した。その内容は、2011年1月1日付けで、世界中に2万3000人以上いる全社員の給料を10%以上増やすことに加え、冬の臨時ボーナスとして1000ドルの現金(税金分は会社が負担)を支給する――というものだ。
あまりにも儲かり過ぎたため税金対策で社員に利益を還元したという説もあるが、当のグーグル社員のあいだではもっぱら、フェイスブックへの人材流出に歯止めをかけるのが目的と見られている。というのも、昇給幅は10%以上とぼかしてはいるが、辞めてほしくない社員には10%どころではない数字を提示しているという。なにしろ現在のフェイスブック社員の60%~70%は、グーグルから転じた者と目されているのだ。
有名なケースでは、08年にグーグルの上級幹部からフェイスブックCOOに転じたシェリル・サンドバーグ氏。グーグルで、利用者の検索という"顕在化した要求"に応える「検索連動型広告」の事業で実績を上げた女性だ。
そしてこちらは先日Wall Street Journal日本版に載った「フェイスブックの隆盛、シリコンバレー勢力図に変化も」という記事からの抜粋:
一方、フェイスブックは、グーグルとマイクロソフトとの間でエンジニア幹部の争奪戦も繰り広げている。
(中略)
フェイスブックの幹部は、同社が抱く野心を隠さない。シェリル・サンドバーグ最高業務責任者(COO)は、「あらゆる業界が、ソーシャル・エンゲージメント(社会的な対人関係)をめぐって再構築されるだろう」と語る。
サンドバーグ氏は、フェイスブックの働きかけによって、友人との交流を主眼としたビデオゲームの企業が多く生まれたと指摘、「ニュース、健康、金融、ショッピング、商取引――こういったことすべてが、社会交流を主眼とする我々の提携企業によって再構築されるのではないか」と述べた。
Googleから移籍したサンドバーグ氏自らが「野望」を隠そうとしない姿が印象的ですが、「マイクロソフトとの間でのエンジニア幹部争奪戦」という表現が言いすぎではないことを証明するニュースが入ってきています:
■ Exclusive: Facebook Grabs Microsoft Global Ad Head Carolyn Everson (All Things Digital)
Microsoftが長い時間をかけて探し出し、昨年6月に同社グローバル広告部門の責任者(Bing、MSN、モバイル、ゲーム機などあらゆる領域を担当)に据えたCarolyn Eversonという女性を、Facebookがかっさらってグローバルセールス担当役員に任命することが明らかになったという話。ご存知の方も多いと思いますが、FacebookはGoogleとの関係を悪化させていた一方で、Microsoftとは出資や広告販売パートナー、さらに検索エンジン(Bing)の提携などといった形で良好な関係を築いていました。米国では引き抜きは当たり前の話ですが、これはさすがに……という感じです。ちなみにEverson氏ですが、Microsoft以前にはMTVでCOOを担当していた人物で、Yahoo!も一時期幹部採用を検討していたとのこと。
その空気を察してか、先ほど登場したFacebookのCOO・サンドバーグ氏から「Microsoftとは長い間パートナーを組んできた関係であり、今後も良い関係を維持して行きたい」という声明が発表されているそうなのですが、Microsoft側からはコメントなし。そりゃせっかく探してきた幹部を、パートナーだと思っていた相手に引き抜かれてしまえばね。しかもEverson氏は入社後、サンドバーグ氏の直属となる予定なのだとか。
それではEverson氏はFacebookにとってプラスとなる人材なのか。以下のAdAge記事には、こんな箇所があります:
■ Microsoft Ad Sales Chief Carolyn Everson Jumps to Facebook (AdAge)
Last June -- after a couple of months at Microsoft -- Ms. Everson told Ad Age she was going to act as Microsoft's "ambassador to the advertising industry, and that is one of my most important roles, to clearly articulate what Microsoft can do for its marketing partners." Facebook has a reputation as very difficult to work with for brands, one reason third-party Facebook agencies and technology providers have flourished.
昨年6月、既にMicrosoftに入社してから数ヶ月が経過していたEverson氏は、AdAgeに対して「私は広告業界に対するMicrosoftの大使として行動するつもりです。私の重要な役割の1つは、Microsoftがマーケティング・パートナーに対して何が提供できるのかを明確に示すことです」と語っている。Facebookは企業から、一緒に仕事をするのが難しい会社という評判を得てしまっている。その理由の1つは、広告枠を提供するサードパーティーや技術プロバイダーが無数に登場しているからだ。
要はサードパーティー製のアプリを通じて広告が出せる状況となっているために、Facebookと広告主の間にきちんとした関係が成立していないと。仮にEverson氏がMicrosoft時代と同じ姿勢で行動するならば(その可能性が高いですが)、この状況も改善される可能性があるでしょう。
ちなみにやすゆきさん(@yasuyukima)が指摘されていて知ったのですが、この件に関連して、Facebook側にこんな動きもあります:
■ Facebook’s Updated Platform Policies: Changes to User IDs, Ad Providers, and Iframe Page Apps (Inside Facebook)
Facebookのプラットフォームポリシーが改訂されたよ、という話。変更点の列挙と、そのインパクトの分析が行われていますので、ご興味のある方は目を通してみて下さい。ここでは1つだけ、広告に関する規定についても細かな修正が行われており、コントロールを強化/徹底する内容が含まれている点を指摘しておきます。
さて。このFacebookの動き、Everson氏がパートナーとの関係を悪化させてまで欲しいほど有能な人物なのか、あるいは本気で広告収入を取りに行くという姿勢の現れなのか(米国のオンライン市場約90億ドルのうち既にFacebookが14%を押さえているという調査結果もあるとのこと)。もしくは単に「もうMicrosoftの手助けなんていらねーぜ!」という自信がさせた行為なのか、Everson氏が短期間でMicrosoftに嫌気が差しただけなのか、様々な解釈が可能でしょう。いずれにせよ、様々な会社が欲してきた有能な女性であることは確かであり、Facebookの業績にとってプラスとなることは間違いないのかもしれません。
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