今年6月25日、オリックス生命保険が日本国内では初めてという、ある画期的な行為を行いました。それは比較広告の掲載(現在も「保険比較サイト」の名前でウェブ上に公開されています)。それが画期的?と思われるかもしれませんが、規制が厳しく、横並びの体質が根強く残っていた保険業界では前例のないこと。この件について、オリックス生命保険ダイレクト事業部の担当者の方々にお話を伺うことができました。今回発表された広告、あるいはウェブサイトがどのような内容なのかを見てゆきながら、お話の内容についてまとめてみたいと思います。
まず比較されている保険商品ですが、「死亡保険編」ではオリックス生命保険のネット専用定期保険「ブリッジ(Bridge)」と他のネット型生命保険2社の商品、「医療保険編」ではオリックス生命保険の「キュア(CURE)」とネット型生命保険1社の商品。表記上は「A社」「B社」などとなっていますが、ウェブサイト上で見てみると……なんとクリッカブルになっていて、比較された企業のサイトへとジャンプすることができます。しかもマウスオーバーすると「クリックすると外部のサイトに遷移します」というメッセージが表示されるという丁寧な対応(笑)。これならハッキリと表記してしまった方が早かったのでは、と思うのですが、この辺りがお上や業界からの批判をかわすギリギリのラインだったのかもしれません。ともあれ、特にウェブサイト上であれば、比較対象も明らかにした形での比較広告となっています。
実はこの広告を出すにあたって、オリックス生命保険は監督省庁である金融庁に事前連絡しなかったとのこと。別に広告内容について、いちいち金融庁に連絡しなければならないという決まりがあるわけではないのですが、「業界の慣習」というやつが存在しているわけですね。しかし「比較広告やります」と言ったところで、大歓迎されるはずもなく。けっきょく金融庁も、業界関係者も寝耳に水の形で実施されたそうです。個人的に、この点はちょっと意外でした。報道を見ていても、「オリックス生命保険は今後睨まれてしまうのではないか!?」という意見があるようですね。
次に比較されている内容ですが、契約可能年齢や保険金額、保険期間、そして忘れてはならない月払保険料など10項目。各項目で選択肢の幅が広いものには赤丸がつけられています。これでオリックス生命保険「ブリッジ」の優位性が一目瞭然……と思いきや、実は他社の方に赤丸がついている項目も結構あります。そもそも「選択肢の幅が広い」というのが優位性かと言われると、そうとも限らないわけで。これを見せられただけで「確かに『ブリッジ』や『キュア』こそが自分にピッタリの保険だ!」と即答できないようにも思えます(単に自分が保険のことについて不勉強だという理由もありますが)。
この点についても「なぜ自信がある項目だけをピックアップして、分かりやすくしなかったのか?」と尋ねてみたところ、こちらは保険商品の広告に関する決まりがちゃんとあって、一定の項目すべてを提示しないといけないことになっているのだとか。なるほど、それでこのような一覧表型の広告になったと。ただ理由には納得なものの、僕のように不勉強な人のために、一覧表とは別にその読み方の指標になるような説明が欲しいところでしょうか。
さて、そもそもの話、なぜオリックス生命保険は比較広告の作成に踏み切ったのでしょうか?実は昨年、同社は「保険商品の選択に関する調査」(プレスリリースのPDFはこちら)と題されたリサーチを実施。この中でサンプルとして「各保険会社の商品ごとの保障内容や保険料などを比較表示した一覧情報」を用意し、利用意向を尋ねたところ、「ぜひ利用したい」と「利用したい」と回答した人々が合わせて84.9%という結果を得ました。この結果が比較広告の作成へとつながっていったわけですね。
確かに比較できる、選択できるというのは消費者にとって大切なポイントでしょう。ただこの点についても、個人的には若干疑問が残ります。最近日本でもシーナ・アイエンガー教授の『選択の科学』を始めとして、「選択」という行為に注目が集まっていますが、様々な研究を通じて「人間は選択肢が多いことを好むものの、実際には多数の選択肢を前にすると逆に混乱して選べなくなる」ことが明らかになっています。それを考えると、確かに第三者による保険比較サイトが注目を集めているものの、本当に「比較」だけで消費者が納得できる保険選びを実現できているかどうかについては慎重に検討する必要があるのではないでしょうか。
僕は何も、比較広告をするなとか、比較広告は意味がないと言っているのではありません。同じように多数の研究を通じて、人々は何らかの補助があれば、数多くの選択肢があっても適切な選択ができることが証明されています。またそもそも消費者のことを考えて情報開示を行う、比較しやすいように商品や広告の設計を行うという姿勢が不足していた保険業界において、日本で初めて比較広告に踏み切るという姿勢そのものが、消費者からの信頼感を高めることになるのではないでしょうか。
オリックス生命保険でもこの点は理解していて、まずは比較広告を行う、ということ自体を重視したとのこと。当然ながら一過性の広告で終わらせるつもりはなく(前述の通りウェブサイトとして公開されているわけですし)、今後は比較するジャンルや企業を増やしてゆく意向があるそうです。僕も、例えば国内の大手生保などとの比較までできるようになれば、より消費者にとって有意義な情報になってゆくのではないかと思います。
他の生命保険会社には、オリックス生命保険の比較広告を「業界のルール破り」などいう捉え方をするのではなく、「消費者が本当に望んでいる情報提供のあり方とはどのようなものだろうか?」という姿勢から反撃を行って欲しいところです。その結果が比較広告であれば、他社も同様に比較広告を行えば良いわけですし、別の何かであればそれをどんどん手掛けてみるべきでしょう。こうした建設的な競争状態がもたらされるきっかけの一つとして、今回の比較広告が注目されることを願っています。
最後になりましたが、現在オリックス生命保険が実施中のキャンペーンについてお知らせ。これも業界初の取り組みになるとのことですが、いま同社では保険商品の「名付け親」を募集中です(2012年8月27日17:00締め切り)。2012年12月から「無配当 七大生活習慣病入院保険・入院医療特約付」という商品の通信販売での取り扱いを開始するにあたり、同商品のペットネーム(「ブリッジ」のような愛称)を考えて欲しい、とのこと。商品名として採用されたペットネームの応募者には、JCB商品券(15万円分)が贈呈されるそうです。
実はこの「無配当 七大生活習慣病入院保険・入院医療特約付」という商品、現在は「キュア・エス(CURE S)」という名前で代理店を通じて発売されているのですが、「キュア」とは明確に異なる商品でありながら、名前が似ているために混乱が起きているとのこと。そこで通信販売を開始するのを機に、新しい名前をということですね。同商品の特徴については、詳しい資料にまとめられているので、こちらのリンク(PDF)からどうそ。
ということで、良い名前を思いついたという方は、以下の公式ページからご応募下さい。
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