WEB系のネタではないですが、面白いニュースなので。アメリカで「1ドル化粧品」が発売され、人気を呼んでいるとのこと:
売れ行き好調、米企業の「1ドル化粧品」シリーズ(CNN.co.jp)
高品質の化粧品を、気軽に買える価格で――。米国の若手実業家2人が創業した「1ドル化粧品」のメーカー「e.l.f.」が、好調な業績を挙げている。空港などに自動販売機を設置する計画も検討しているという。
ちなみに同社のホームーページはこちら:
高い化粧品が買えないティーンエイジ層や、低所得者層をターゲットとした商品だろと思いきや。「高収入の女性を満足させる低価格の化粧品」というコンセプトで開発されているそうです。
多様な化粧品、スキンケア用品をそろえた同社の商品は、ほとんどがわずか1ドル。一方で、ファッション性や肌への効果など、品質の高さにも重点を置く。
とのこと。ホームページ(e.l.f. "The Buzz")を見ると、既に多くのファッション誌で取り上げられていることが分かります。
e.l.f.が優れていると感じたのは、「安い=品質も低い」というポジションを取るのではなく、「安いけれど高い価値の商品」を販売するというスタンスを保っていること。例えばA、B、Cという商品があり、それぞれ100円、1,000円、10,000円という値段が付けられていた場合、消費者は無意識のうちに以下のようなイメージを描くはずです:
このイメージのままだと、e.l.fの製品は「100円で品質も低い」という商品Aのセグメントで争うことになります。しかしe.l.f.は価格が100円でありながら、人々に「商品Cと同等の質を持つ」と納得させる商品を販売しているわけです(下図のA'の位置):
e.l.f.を主に購入しているユーザー層がどこなのかは分かりませんが、仮にターゲットの通り高所得者層であれば、その圧倒的な低価格が魅力になるでしょう。逆にティーンエイジ層や低所得者層であれば、「高級化粧品並みの品質」が魅力となるわけです。
化粧品やファッションという分野は、「価格が価値を決める」という傾向が強い分野でした。「安い=低品質」という人々のステレオタイプを、崩すことができ ないと思われていたわけです。しかしe.l.f.の起業家たちはそのステレオタイプが崩れつつあることを直感し、1ドル化粧品というカテゴリを作り出した わけです。自分達が「これは与件だ」「変えることができない」と思っている前提条件でも、疑ってみることが重要なのかもしれません。
e.l.f.の戦略が真似されてしまう可能性は無いのでしょうか。既に高級化粧品を販売している会社にとっては、「安いけれど高品質」な化粧品の販売は安売りを始めることに等しいわけですから、「イノベーターのジレンマ」的な状況に陥ります。逆に低価格品を販売している会社は「低価格品を安く販売する」能力しか有していないでしょうから、研究開発や流通プロセスの改善など様々なハードルをクリアしなければなりません。従って、彼らの後を追う企業がすぐには現れないと思います。
しかしそれ以上に重要なのは、既存の化粧品会社が「高い品質だから値段を高くしてよい」「安いから低品質の商品でよい」という考えに陥っていたことでしょう。この発想を転換できない限り、e.l.f.のチャンスは続くと思います。
<追記>
似たようなケースが最新号の『日経ビジネス』に掲載されていたので、ちょっと抜粋:
弱者にチャンスあり 無だからこそできる--浅見 紀夫[一ノ蔵副会長] (日経ビジネス2006年1月16日)
地方ブランドは、当時あった特級、一級といった等級の酒を出しても売れないんです。そのクラスになると贈答用が多くて、全国ブランドに取られてしまうからです。
品質を良くして本物にこだわって、それでもダメ。どうしたらいいか。苦しんだ末に考えたのが、本物を安くしようということでした。
(中略)
味は十分、一級以上だと思えるものをあえて「二級酒」にして安くしたのです。77年のことでした。
商標登録も取って、「無監査本醸造辛口」などとして出しましたが、これは売れましたね。そのうちにこだわりの醸造ぶりが雑誌に掲載されたり、優良な地酒を全国に紹介する日本名門酒会に入れていただいたりするようになって、知名度も販路もぐっと広がっていきました。
これも「知名度のない高級品は売れない」から「安かろう悪かろう」の商品を開発するのではなく、あくまでも高級品を作るというスタンスを守って成功した例でしょう。
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