広告業界に携わっている方々には初歩の初歩なのかもしれませんが、僕は面白く読みました(観ました?)。広告のタイプを12に分けて、それぞれのサンプルを YouTube で見せてくれるという記事:
■ There Are 12 Kinds of Ads in the World (Slate Magazine)
かつて Leo Burnett (ちなみにこのサイトも一見の価値あり)のクリエイティブディレクターだった Donald Gunn 氏が分類した、広告の12のパターンについて(1978年に考えられたものとのこと)。さっそく内容は、というと……
※12個のビデオを貼ると長くなるので、(1)以外は個別ページに置いてあります。全体をご覧になりたい方は「続きを読む」をクリックして下さい。
1. デモ
文字通り、製品/サービスの性能/内容をデモンストレーションすること。サンプルビデオはサムソナイトのスーツケース広告。確かにこの広告を見てるだけで、「このスーツケース欲しい!」となってきます。
2. ニーズもしくは問題の提示
現状の問題点を指摘し、その解決策(=宣伝する製品/サービス)を提示する。サンプルは Cingular (アメリカの携帯電話事業者)の広告。大切な会話の途中で、相手の声が不明瞭になり……最後のテロップで「最も通話が途切れないケータイに切り替えよう」というメッセージが出ます。
3. 問題の誇張/象徴化
2.に近いですが、こっちは問題を何かで象徴したり、誇張したりする手法。サンプルを見てもらえれば一目瞭然だと思います。風邪をひいた男が、怪物の姿で描かれて……。
4. 比較
他社の製品/サービスより自社の方が優れていますよ、というパターン。サンプルはアメリカの証券会社・チャールズ・シュワブのもので、他社より手数料が安いことをアピールする内容。
5. 典型例
宣伝する製品/サービスが実際に活躍するストーリーを見せる。サンプルはフォルクスワーゲンの広告ですが、これも説明不要だと思います。
6. さかさまのストーリー
宣伝する製品/サービスを最初には提示せず、それが提供する価値に焦点を当ててストーリーを進める手法。というと何のことやら、という感じですが、これもサンプルを見ると分かりやすいです。美女たちが次々に登場して、「あなたが○○しても/○○したのを許すわ」と言ってくれます。○○の内容は通常なら絶対に許してくれないことなのですが、なぜ彼女たちが優しくなっているかというと……という話。ショートショートのような手法ですね。
7. 推薦
実在の人物や、友達のように話しかけてくる人物が登場して、「○○がいいよ!」と宣伝する手法。元記事のサンプルが YouTube ではないため貼れないのですが(念のためリンクはこちら)、これはサンプルがなくても山のようにCMで流れていますよね。
8. キャラクター/有名人の連投
ブランドを認知してもらうため、同じキャラクターや有名人を何度も起用する。これも日本ではお馴染みの手法ですが、念のためサンプルのリンクはこちら。アメリカの大手保険会社 GEICO が展開している、「原始人シリーズ」(富士通FMVにあらず)。「GEICOへの加入は原始人でも簡単!」というキャッチフレーズに原始人が怒る、というパターンで何作も作られているとのこと。
※追記: タイムリーに、デジタルARENAにこんな記事がありました。この原始人シリーズ、なんとABCで連ドラ化とのこと。この例だけではありませんが、CMキャラもあなどれないですね……。
9. 効果の誇張/象徴化
3.で誇張されるのが「問題」だったのに対して、こちらは宣伝する製品/サービスが実現する効果や価値を誇張/象徴化するパターン。サンプルは Metamucil (メタムシル)という便秘用サプリメントの宣伝。「お通じ」が何に象徴されているのか、見てのお楽しみ。
10. イメージの連関
「こうなりたい」と思うような有名人を起用して、宣伝する製品/サービスのイメージと関連付ける。これも日本の広告ではお馴染みですね。サンプルは当然(?)、ナイキのCM。
11. ユニークな個性
宣伝する製品/サービスを際立たせる個性をPRする。何が個性になるかは様々で、例えばドイツ車が産地をアピールすることで「ドイツの技術力」を印象付ける、など。サンプルはダイソンの掃除機。ここで「個性」になっているのは、ダイソンの創業者であるジェームス・ダイソン。
12. パロディ/借用
映画やテレビ番組などをパロディしたり、設定を借用して広告にしてしまう。安易だが、視聴者に覚えてもらいやすい。サンプルは先ほども登場した保険会社、GEICO。最近アメリカで大流行しているリアリティ番組っぽく見えるように作ってあります。実在する(ように見える)結婚したばかりのカップルがやってきた新居は、異常なほど小さくて……というストーリー。
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以上12種類でした。で、これは1978年当時の状況であって、追加されるべきパターンはないか?というのが最後に論じられています。例えばバイラル広告の典型例として各所で紹介されている、「メントス×ダイエットコーク」や「バーガーキングのSubservient Chicken」などのために、新しいカテゴリが必要なのでしょうか。記事では Gunn 氏の12分類でまだ十分ではないか、と判断しているのですが、個人的には「とにかくウケさせる/インパクトを与える/クチコミを狙う」というカテゴリが登場しているように思います(それが良いか悪いかは別にして)。
ただこの12タイプは学問的に広告を分類するために使うのではなく(そもそも1つのタイプしか使っていない広告というものは珍しく、たいていは2~3のタイプを融合したものです)、アイデア出しの際に思考のガイドラインとして使うものなのでしょうね。ちょっと忘れてしまったのですが、以前読んだ本に「素人でも基本を押さえることで、視聴者に好評を得る広告を作ることができた」という実験結果が紹介されていました。最近はユーザーに広告を考えてもらう、というキャンペーンも行われるようになっていますし、この12分類を覚えておけばどこかで役に立つかも?
< 追記 >
上記の「素人でも基本を押さえることで~」の部分ですが、思い出しました。以前紹介した本"Made to Stick: Why Some Ideas Survive and Others Die"の中に、こんな部分があります:
The Israeli researchers, curious about the ability to teach creativity, decided to see just how far a template could take someone.
イスラエルの研究者たちは、創造性を教育することができるか否かという点に興味を持ち、テンプレートがどこまで有効化を調べることにした。
「イスラエルの研究者たち」とは、1999年に"The Fundamental Templates of Quality Ads"という論文を発表したチームのこと。この論文は有名な賞を受賞したり、ノミネートされた200の「良い広告」を研究し、それらに共通する「6つのテンプレート」を導き出すという内容だそうです。で、この「6つのテンプレート」を教えられた素人が、どこまで優れた広告を生み出すことができるか……が実験されました。
まず素人を集め、3つのグループに分けます。いくつかの宣伝対象製品が与えられ、それらについての説明が行われたあと、各グループは以下のように行動しました:
- 第1グループ: 製品の説明が行われた直後に広告制作開始(教育なし)
- 第2グループ: インストラクター」による2時間の発想法訓練
- 第3グループ: 「6つのテンプレート」についての2時間の講習
で、各グループが作成した広告の中から専門家が15個を選び、一般の消費者に見せて採点してもらった結果……
- 第1グループ: 「うっとうしい」広告と評価される
- 第2グループ: 「うっとうしい」と評価される率は減るが、「創造性」という点では第1グループと同じ評価
- 第3グループ: 第1グループに比べ好意的に評価される率が55%アップし、「創造性」という点でも評価が50%アップ
とのこと。そんな上手くいくかよ、という気もするのですが、ここから先は元論文をあたってみるしかないですね。どこかで全文が手に入らないかな……。
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