現実化する?「サイバーカスケード」
Rauru Blog さんの記事で「サイバーカスケード」 という概念があるのを知り、遅ればせながら、紹介されていた「インターネットは『僕ら』を幸せにしたか?」 という本を買ってきて読んでいます。
サイバーカスケードとは何か?という説明については、こちらのサイトで詳しく解説されています。 蛇足ですが、こちらに定義だけ引用しておきます:
インターネットでは、 付和雷同的に自分と同じ考えの反響を見つけ、同調しあうことがごく容易に可能となる。そして個々人がそのように振る舞うことで、 もともと人々が抱いていた主義主張の極端な純化・先鋭化へと、全体的な議論の収束先は向かってしまう。一方、 自分たちとは反対側の立場を無視・排除する傾向が強化され、極端な意見が幅を効かせる、ポピュリズム的事態を招いてしまうという危険がある。 こうしてインターネット上には、極端化し閉鎖化してしまったグループ(「エンクレーブ ecvlave(「飛び地」の意)」と呼ぶ) が無数に散らばる、きわめて流動的で不安定な状態となってしまう可能性がある。
先日の衆議院選挙は、 自民党の圧勝という結果で終わりました。日経ビジネスの9月12日号に掲載された記事によると、 ネット掲示板やブログなどを調査した結果、ネット上の世論では自民党を押す声が強かったそうです。特に2ちゃんねるでは (もともとその傾向が強いのですが) 自民党支持が圧倒的だったとのこと。そして実際、ネットユーザーの割合が大きい若年層ほど、 自民党候補に投票した割合が高かったそうです。
これが「サイバーカスケード」の現れ、 つまりネット上で意見が極端な方向に集約してしまった結果なのか、それとも単に自民党支持層が増加しており、 その意見がネットに反映されただけなのかは分かりません。しかし得票数で見ると、自民党全体での獲得票数は、 民主党の約1.3倍に過ぎなかったそうですから、ネット上にもっと民主党支持の声があっても良かったはずです。 明らかに今回の衆議院選挙では、ネット上に形成された世論は現実の世論よりも急進的で、歪んでいました。
SearchFox RSS Reader が実現する「私だけの世界」
最近別のブログを読んで、 「SearchFox RSS Reader」なるものが存在することを知りました(ホームページはこちら)。解説についてはそのブログに詳しいので、 リンクを貼っておきます:
SearchFox - Personalized RSS Reader (techcrunch)
このRSSリーダー、 何がユニークかというと、ユーザーがRSSフィードを読んだデータを分析して、 その人が読みたいであろう記事を上の方に表示してくれるのです。例えばあなたが、RSSフィードを100件近く登録していたとして、 毎日何百という記事の更新情報を受け取っているとしましょう。普通に目を通していたのでは、時間がいくらあっても足りません。 そんな時「SearchFox RSS Reader」を使っていて、過去に「RSS」 というキーワードが多く含まれる記事を読む傾向があったとすると、このRSSリーダーは新着のRSSフィードの中身を見て「RSS」 というキーワードに対して関連性の高い記事から画面に表示してくれるのです。(スクリーンショットが記事の最後にありますので、 ご参照下さい。)
ちなみにSearchFoxというサービスはもともと、 検索エンジンとソーシャルネットワーキングを足したようなサービス(検索結果を他のユーザーとシェアできる)を展開していました (ホームページはこちら)。以下、 SearchFoxを紹介した記事を抜粋します:
SearchFoxは、 スタンフォード大で長年教授を務めた元工学部長のJames Gibbonsが、 2004年12月に他のメンバーと共同で設立したウェブ関連の新興企業だ。私企業である同社は、 ユーザー間のお気に入りリンク集の共有、 ならびにパーソナライズされた検索インデックスの作成が可能な協調型検索エンジンを開発した。(CNet Japanの記事より: 原文リンク)
さて、 このRSSリーダーの何が問題だと思うのか?情報を取捨選択してくれるのは確かに便利です。しかし、 自分が過去に読んだのと同じような記事が表示されるだけだと、受信する情報に大きな偏りが生まれてしまわないでしょうか。 SearchFoxでは個人用にカスタマイズされたページのことを「My World」と呼んでいますが、まさに「私の世界」 に閉じこもり、外の世界からシャットアウトされてしまう危険性を孕んでいるように思います。
前述の 「インターネットは『僕ら』を幸せにしたか?」 の中で指摘されていたことですが、情報化によって「読みたい情報だけを読む」ということが可能になると、 同じ意見だけを耳にするようになり、考えが極端化して対立意見を排除してしまうようになる危険性があります。 その結果が「サイバーカスケード」となるわけですが、SearchFox RSS Readerは 「読みたい情報だけを読む」を突き詰めて行うことができるツールであり、 サイバーカスケードの発生率を高めてしまうと考えられないでしょうか。
欲しい情報だけを探してくれるというのは、本当に便利なサービスだと思います。正直言って、僕もこの 「SearchFox RSS Reader」をしばらく使ってみようかなという気になっています。しかし、 RSSリーダーで記事を読むのに費やしたのと同じ時間を、新聞や雑誌を読むために使うなど、 接する情報に偏りが出ないように心がけようと思っています。
※補足:SearchFox RSS Readerのスクリーンショット
「My World」を表示したところ。OPMLを読み込ませたため、既にデフォルトで登録されている以外のRSSフィードも表示されている(「Untitled」に分類されているフィード)。よく見ると分かると思うが、記事は時系列ではなく、「読む傾向が強い」記事が上位に表示されている。
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