Web 2.0の議論の中に必ず登場するキーワードの1つに、"Wisdom of Crowds (集団の知恵、集合知)"があることはご存知でしょう。この言葉を世に広めた本"The Wisdom of Crowds"の翻訳本、『「みんなの意見」は案外正しい』が出版されました:
この本、はてな伊藤さんのブログ「アルファギークのブックマーク」にあった記事(多様化する個を集めて新しい価値を生み出す「Wisdom of Crowds」)を読んで以来、ずっと気になっていました(だったら原書を買えよって話ですが)。昨日書店で偶然見つけ、早速購入して読んでいます。
この本がWeb 2.0の福音書なのか、免罪符にすぎないのかは今後議論されていくと思いますが、豊富な事例も紹介されていますし、興味深い本だと思います。まだ読み始めたばかりなのですが、「集団の知恵」と呼ぶべき現象が生まれるためにはどんな条件が必要か、多くのユーザーが参加するWebサービスを考える際に参考になるのではと考えています。(ただ『「みんなの意見」は案外正しい』という邦題はちょっと・・・"Wisdom of Crowds"の方がカッコイイのに。)
で、第3回社内ブログ/SNS研究会の概要も決まったということで、ちょっとだけ社内ブログと絡めた議論を。この本では、"Wisdom of Crowds"が発生する条件として、以下の4つを挙げています。これも他のサイトなどで紹介され、既に有名ですが、念のため記しておくと:
- 多様性(各自が独自の私的情報を多少なりとも持っている)
- 独立性(他者の考えに左右されない)
- 分散性(身近な情報に特化し、それを利用できる)
- 集約性(個々人の判断を集計して集団として1つの判断に集約するメカニズムの存在)
となります。いずれも重要な条件ですが、社内ブログは「多様性」という面を促進する効果があるのではないかと思います。
これまでのナレッジ・マネジメントツールでは、1つあるいはごく少数の上手くいったやり方を「公式見解=ナレッジ」として保管しておく、という手法がほとんどでした。これに対し、社内ブログでは(運用方法により左右されますが)個人が自由に情報を書き込むことができます。その情報には誤りや、短絡的な意見も含まれているかもしれません。しかしこれまでは「非公式」として流通することのなかった「知識のカケラ」を、社内ブログによって流通させることが可能になります。『「みんなの意見」は案外正しい』の中には、こんな一節があります:
システムの成功は、どれが敗者かはっきりさせて速やかに淘汰する能力にかかっている。いや、もしかすると、そもそも大量の敗者を輩出できる能力の有無が、システム成功の鍵を握るとも言い換えられたほうがいいのかもしれない。
この意見が正しいとすれば、大量の非公式見解を生み出すことのできる社内ブログは、まさに"Wisdom of Crowds"を促進するのに最適のツールなのかもしれません。
ただし、そう簡単にはいかないでしょう。同書では集団の意見によって個人の意見が抑圧されてしまうケース(言論弾圧が行われたり、「集団行動を乱したくない」という思いから自ら意見を封じ込めるなど)が発生することが指摘されていますし、そもそもWisdom of Crowdsの第4の条件「集約性」に対して、ブログというシステムが適しているかどうかも考える必要があります。社内ブログの効果を引き出すためには、個人が闊達に意見の言える社内文化や、多様な評価軸を用意した人事評価制度など、社内ブログと相互にサポートしあう仕組みの存在が欠かせないのではないでしょうか。
いずれにせよ、社内ブログは"Wisdom of Crowds"を促進するツールの1つに成り得ると信じています。第3回社内ブログ/SNS研究会もいわば、「社内ブログ/SNSをどう生かすか?」という問いに対するWisdom of Crowdsを形成するための場です。社内ブログ/SNSに賛成の方も反対の方も、推進派の方も否定派の方も、どちらも大歓迎。皆様の参加をお待ちしております!
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