今月号の『ハーバード・ビジネス・レビュー』に、アメリカ軍の内部に開設されている「カンパニー・コマンド(CompanyCommand)」というWEBサイトについて扱った記事が掲載されています:
■ P2Pのリーダーシップ開発(ハーバード・ビジネス・レビュー 2006年7月号)
このサイト、任務上の問題(「部隊を盛り立てていた兵士が戦死した場合、どのように振舞えばよいのか?」など)を抱える下級将校たちが同じ状況を経験した他の将校にアドバイスを仰ぐことができる、というもの。いわば軍隊版QAサイトとでも言うべきものなのですが、経験とアドバイスの共有を通じて、将校たちのリーダーシップ開発に一役買っているそうです。
しかしなぜ、専門家ではなく同僚にアドバイスを仰ぐサイトなのでしょうか。記事では以下のように解説されています:
専門家が何年もかけて蓄積した知識は、イラクのように急激に変化する戦場では用をなさないことがあるからだ。また、自分と似たような境遇にある者からのアドバイスのほうが信頼性は高く、受け入れやすい。さらに、仲間との会話は、実務面のみならず、気持ちのうえでも心強い。
詳しくは記事を読んでみていただきたいのですが、軍隊のようなヒエラルキー構造の強い組織であっても、P2P型で知識共有が行われていることは注目に値するのではないでしょうか。特にカンパニー・コマンドの利用者は、自分がいま直面している問題について解決策を求めているとのことで、より即効性・具体性の高い情報の共有にP2P型が役立っていることが分かります。
話は変わって、今日の日経産業新聞にこんなニュースが掲載されていました:
■ SNSで指導のコツ蓄積 -- サイブリッジが情報共有システム 教育機関向け販売(日経産業新聞 2006年6月13日 第17面)
システム開発のサイブリッジが、学習塾などの教育機関向けにSNS型の情報共有システムを開発した、とのこと。ユーザー(講師)が自分の指導法などを書き足していくことで、情報を蓄積・共有することを狙っているそうです。実際どこまで使えるシステムになっているのかは分かりませんが、これも一種のP2P型情報共有と言えるでしょう。
僕の父親は以前、小学校の教師をしていました。数年前に定年退職したのですが、現在は新任の教師を指導するという仕事をしています。新任教師は現場経験が浅いため、想定外の事態が起きるとどうすればよいか分からなくなってしまうことがあり、ベテラン教師がサポートする仕組みが設けられているそうです。理論などの教科書的な知識はレクチャー型で教えることができるのかもしれませんが、実戦経験はやはり現場で教えるしかないのでしょう。サイブリッジの開発したシステムも、「教育機関版カンパニー・コマンド」として即効性・具体性の高い情報の共有に役立つ可能性があるのではないかと思います。
考えてみれば、就職活動者が実戦知識を共有する「みんなの就職」などのように、他にもP2P型情報共有の成功例が存在しています。他の分野への応用や、「企業内版カンパニー・コマンド」を実現することを検討してみても面白いのではないでしょうか。
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