※このエントリは、例によって「進化生態情報学」で聞きかじった知識なので、学問的に正しくない情報が含まれている場合があります。誤りがある場合にはご指摘下さい。
僕は勘違いしていたのですが、例えば「猫の遺伝子」というようなものは1つに決められないのだそうです。毛が黒い猫の遺伝子、瞳の色が左右違う猫の遺伝子、尻尾が短い猫の遺伝子など、様々なバリエーションが総体として「遺伝子プール」と呼ばれ、「種」とはこの遺伝子プールのことなのだとか(※実際には「種」はもっとあやふやな概念だそうです)。偏差を見てみれば、例えば「日本猫は尻尾の長い個体が多い」というような「偏り」はあるものの、基準となるような「理想の遺伝子」などという概念はないとのこと。
ある「種」が生存と進化を続けられるのは、それが「遺伝子」ではなく、「遺伝子プール」というバリエーションを内包した存在であるためです。例えば昆虫でも、色の異なる固体が同じ種として「プール」の中に存在していることで、自然環境の中で生息している場合には緑っぽい個体が生き残り(外敵に対する保護色となるため)、工業化によって人工の建造物が増えた場合には黒っぽい固体が生き残る(同じく保護色となるため)、というような適応が可能です。これが緑色の個体ばかりだとしたら、人間が自然を切り開いた瞬間にこの昆虫は絶滅してしまうでしょう。
この考え方は、企業にも当てはめられるのではないでしょうか。企業を1つの生物(個体)ではなく、1つの「種」として考えた場合、企業が倒産・吸収されずに生存・進化を続けるためには、「社員」という遺伝子プールがどこまでバリエーション豊かなのかによって決まるのだと考えられると思います。
例えば、会社としての方向性が「現状の生産方法により『規模の経済』を発揮し、低価格商品を大量に販売すること」だったとします。この方向性に向かって全社員が同じ動きをしていたとしたら、より低コストで商品を作れる企業が登場した瞬間にこの企業は「絶滅」してしまうでしょう。しかし社員の中に「高価格帯の商品を追求している人」「アフターサービスで儲けられないかと考えている人」「生産コストが100分の1になる画期的な新生産方法を研究している人」などがいたら、彼らが生き残りの道を発見するはずです。それが成功するか否かはもちろんケースバイケースですが、環境の変化にどれだけの耐性があるかは、こうした「本流から外れた社員」の存在にかかっていると言えるでしょう。
企業という「遺伝子プール」を健康な状態に保っておくためには、何が必要なのでしょうか。最近『シャドーワーク』という本を読んだのですが、この中で、通常の業務以外に社員が自主的に行う仕事「シャドーワーク」(ex. Google の20%ルール)の重要性について解説されています。この本で言う「シャドーワーク」には、単に業務外で行う仕事というだけでなく、「社内外の人々とフラットな関係で進める活動」という意味が込められているのですが、こういった活動が新しい発想を生み出すことに役立つのは明らかでしょう。従ってシャドーワークを認めて奨励することが、遺伝子プールのバリエーションを豊かにする1つの方法だと思います。
また多くのビジネス書で「失敗を許すこと」の重要性が指摘されています。仮にシャドーワークという形で「会社の方向性には一致しない活動」が認められたとしても、それが失敗した場合には罰せられるという組織では、誰もイレギュラーな行動を取ろうとはしないでしょう。仮に決められた以外の事をして失敗しても何ら不利益を被ることはないようにしておくことも、バリエーションを豊かに保つためには欠かせません。
もっとドラスティックに、「『理想の日立コンサルティング社員』などというものは存在しない=本流から外れた人々も『日立コンサルティングという種族』の生存と進化に欠かせない存在だ」という風に考えれば、失敗した社員にも成功した社員と同じ給与を支払う、という発想ができるかもしれません。これはラディカル過ぎる考え方でしょうか?しかしこれまた最近読んだ本"The Strategy Paradox"では、いかに企業戦略の成否というものが(一企業にはコントロールし得ない)環境に左右されるものなのかが解説されています。ならば社員への報酬は、現在の環境にどれだけ適合しているかだけでなく、他人と異なる活動にどれだけ精力を傾けたかによっても決定されるべきではないかと思います。
会社の方針から外れた行動は、とかく「経費の無駄遣い」や「風紀を乱す」といった非難を浴びがちです。しかし「企業の生存」という大きな視点から見れば、本流以外の活動をプールしておくことは重要でしょう。傍流をいかに育てて活用するか、もっと考えられるべきではないでしょうか。
……とまた「OpenCourseWare でどこまで学べるか?」と連動してエントリを書いてみました。最近日記をつけていませんでしたが、講義ビデオのLec.3、3本目まで見終わっています。徐々に専門用語も増えてきて、一層楽しくなってきました。これからもたまーに進化論ネタが出てくると思うので、ご容赦下さい。
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