このエントリは、ベートーヴェンの交響曲第2番(カラヤン指揮)を聞きながら書いています。理由は後述しますが、皆さんにも YouTube のビデオをどうぞ:
さて、本題。権利者団体による「Culture First」発表、予想通り波紋を広げているようですね:
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僕の感想は昨日書いた通り、権利者団体は議論に勝つつもりではなく、勝負に勝つつもりでいるのだと思います。恐らくPRコンサルタントなどを雇い、周到にプロモーション戦略を練ったのでしょう。その結果出てきたのが「文化を守れ」というキャッチフレーズで、これは議論に関心のない人々にとっては効果絶大だと思います。「権利者団体はバカだ、あんな破綻した議論をして」と鼻で笑っていると、「文化」という言葉が一種の「錦の御旗」のようになって、権利者団体の方が世論の支持を得る結果となってしまうでしょう。
ということで彼らの議論に乗る必要はない、むしろ同じ土俵に乗るのは危険だと思っているのですが、1つだけ反論を。というより今読んでいる本、『ベートーヴェンの交響曲』に面白い記述があったので、ちょっと引用してみたいと思います:
ここで、いま話していることとはちょっと離れますが、ベートーヴェンの時代に第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが同数だったのに、フルトヴェングラーなどが活躍した20世紀になると、第2ヴァイオリンのほうが若干とはいえ少なくなるのも不思議なことです。こういう「差別」がどこから起こったのか、最初のきっかけはよくわかりませんが、あるいはオーケストラの楽器の配置も影響したのかもしれません。
というのは、ベートーヴェンの時代には、指揮者から見て左から右へ、第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンと並んでいました。コントラバスはチェロの後ろ。ほかにも会場の広さやいろんな都合で、さまざまな配置があったようですが、ヴァイオリンは第1が左、第2が右で、ステージの最前列というのが基本的な形でした。そして、左から、右から、と掛け合いをするように音が移行するおもしろさを楽しんだわけです。
ところが、20世紀になって録音という技術が生まれました。すると、初期の録音技術(マイクロホンの性能)では、高音の楽器と低音の楽器ができるだけ同じ場所に集められるほうが録音しやすいという条件が出てきます。そこでレオポルド・ストコフスキーという大指揮者が、高音群の楽器から低音群の楽器を左から右へと並べる配置にしたのです。その結果、第2ヴァイオリンは第1ヴァイオリンの奥へと隠れるようになり、なにか一段「劣る」もののような感覚が生まれた、それで、人数的にも少なくなったのかもしれません。
交響曲第2番に関する解説の中にあった一節(それで前掲の YouTube になります)。それが良かったか悪かったかという価値判断は別にして、クラシック音楽ですらも、新しい楽しみ方の登場によりそのスタイルを変化させているわけですね。仮にクラシックに関わる人々がすべて「いや、ヴァイオリンは左右に配置するのが伝統だ。『文化』を守るため、変えるわけにはいかない」と言っていたら、録音を介した音楽は聴くに堪えないものになり、オーケストラを聴く人々は今日のように多くなかったかもしれません(逆に技術が進歩した現在なら、ベートーヴェン時代の配置に戻した方が録音で聴いても楽しめるかもしれないですね)。
「文化を守る」とは、何かを変えずにかたくなに維持することではなく、時代や環境に応じて柔軟に変えていくことではないでしょうか。そしてそのような変化は、あくまでも文化を楽しむ人々のことを考えて行われなければならないでしょう。コンサートに足を運べなくてもオーケストラが聴きたい、そんな人々のために録音を聴くというスタイルも可能にする、そして録音でも最高の視聴体験ができるように楽器の編成・配置も変えてしまう……それは伝統の否定ではなく、至って健全な行為だと思います。
今回、有名な芸術家の方々も Culture First の賛同者、悪く言えば広告塔として登場されているようですが、ぜひ後ろを振り返って「伝統」にしがみつくのではなく、利用者の方を向いて未来を築いていって欲しいと思います。少なくとも、好きなときに好きなだけカラヤン指揮のベートーヴェンがネットで楽しめるという状況は、クラシック音楽という文化を守るのに大きな役割を果たしているのではないでしょうか。
文化を守るためにはその文化を廃れさせない必要がある
権利者団体はおそらく、厳重な保護こそが、文化を廃れさせないために必要なことだと考えているのでしょう
でも過保護にされて可能性がつぶされてしまっては元も子もないですよね
身近にあって誰でも気軽に触れることのできるものこそが良い文化ですからね
投稿情報: kokoro | 2008/01/18 23:17