そりゃスティーブ・ジョブスは結果を出しているし、iPod や iPhone の成功(まだ iPhone が日本でどうなるかは予断を許しませんが)は疑うべくもありません。しかし賛美の声ばかり聞かされると、「そんなに凄いのかなぁ」とも思ってしまうわけです(あまのじゃくなので)。もし同じような感覚を抱いている方がいらっしゃったら、『なぜビジネス書は間違うのか』を読まれることをお勧めします。
この本、200ページを超える「ビジネス書」なのですが、時間が無い方は全体を読む必要はありません。タイトルにある「なぜビジネス書は間違うのか」のエッセンスを集めた、冒頭の「妄想9ヵ条」を読むだけでも十分。書店で立ち読み……もいいのですが、せっかくなので引用してしまうと:
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妄想1 - ハロー効果
ハロー効果とは、企業の全体的な業績を見て、それをもとにその企業の文化やリーダーシップや価値観などを評価する傾向のことである。一般に企業パフォーマンスを決定づける要因だといわれている多くの事柄は、たんに業績から跡づけた理由にすぎない。
妄想 2 - 相関関係と因果関係の混同
二つの事柄に因果関係があっても、どちらがどちらの原因であるかはわからない。社員が仕事環境に満足していると、会社の業績があがるのだろうか。調査結果は逆のことを示している。つまり、会社が成功しているから、社員はそこで働くことに満足感を覚えるのである。
妄想3 - 理由は一つ
特定の要素、たとえば望ましい企業文化や顧客志向やすぐれたリーダーシップによって業績が向上することは、多くの調査によって示されている。だが、これらの要素の多くは相互に強く関係しており、個々の影響は調査者が主張するほど強くない。
妄想4 - 成功例だけをとり上げる
成功した企業を数多くとり上げて、それらに共通するパターンを探しても、成功した理由を浮かびあがらせることはできない。成功の要因を知るためには、成功していない企業と比較しなくてはならないのである。
妄想5 - 徹底的な調査
どんなにたくさんのデータを集めようと、どんなに厳密な手法で分析しているように見えようと、データの質が悪ければ意味はない。
妄想6 - 永続する成功
好業績をあげている企業も、時がたてばほぼ例外なく業績が低下する。永続する成功を約束するビジネス書は魅力的だが、現実的ではない。
妄想7 - 絶対的な業績
企業パフォーマンスは相対的なものであり、絶対的なものではない。業績を向上させても、競合企業にはるかに後れをとっているということもありうるのである。
妄想8 - 解釈のまちがい
成功した企業が戦略をしぼりこんでそれに力を集中させているのは本当かもしれないが、だからといって、戦略を一つにしぼりこめばかならず成功するということにはならない。
妄想9 - 組織の物理法則
企業パフォーマンスは自然界の不変の法則に支配されてはならない。いくら私たちが確実性や秩序をもとめても、科学のような正確さで業績を予測することは不可能である。
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以上9ヵ条。要は「成功した事例を持ち上げて、適当に分析してもっともらしいことを言うのはいくらでもできる。それに騙されるな」といったところでしょうか。
もちろん成功事例を分析した文章に、優れたものが全くないというわけではありません。正しい分析を行えば、正しい知見を得ることも当然可能でしょう。しかし何が正しい知見を示している文章で、何が「一見もっともらしいけど、実は『相手がグーを出したら、パーを出せば勝てるよ!』としか言っていない」文章なのか、それを見極めるのは難しいと。しかも「グーにパーを出したので勝てた」的分析は誰にでも・いくらでも書けるので(ええ仰る通り、僕もそんなニセ分析を大量生産している一人です)、S/N比は非常に高くなっているはずです低くなっているはずです(ごめんなさい、はてブコメントの指摘で誤りに気づきました)。
というわけで、「ジョブスすごい」「iPhone すごい」記事を読むのもいいのですが、同時にとんでもないエセ成功理論をつかまされるリスクも高まると思うわけです。例え大成功した事例を、著名な学者・著名なコンサルタントが分析した文章を読む場合でも、上記の9ヵ条を常に心に留めておくことが必要かと。
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