『グーグルvsアップル ケータイ世界大戦 ~AndroidとiPhoneはどこまで常識を破壊するのか』を読了。なんだかご大層なタイトルで「トンデモ本?」かと一瞬思ってしまったのですが、著者の石川温さんは IT-PLUS 等でも携帯電話業界のレポートを書かれている方で、内容は至ってまじめ。iPhone が日本にも上陸、Google の Android ケータイが登場間近、というタイミングを出発点とし、この両者を軸に日本と世界の携帯電話業界が俯瞰されます。
さらにこのタイトル、「Google と Apple の激突で日本市場が大混乱に!」的な内容が書かれていそうな気にさせますが、それも誤解です(何でこんなタイトルにしたんだか……)。良い意味でストーリーテリング的なものはなく、「世界のケータイ業界勢力図はこうなる!」的な予言もありません。「こんな企業がこんな動きをしてて、こんな素晴らしい戦略なんだけど、一方でこんな弱点があって」といった状況が淡々と語られていくだけで、「結論から言って、どの企業が勝つの?」という方には物足りない内容でしょう。
しかしそれだけに、いま世界の携帯電話業界がいかに流動的な状況で、あらゆる企業と戦略に可能性があるのだ、ということがよく分かります。例えば以下は、プラットフォームに関する各勢力の動きをまとめた部分:
これまで取り上げてきたプラットフォームを比較すると、それぞれ個性があってとてもおもしろい。
iPhone 2.0 は、アップルが開発する iPhone と iPod touch で採用し(原文ママ)、垂直統合モデルとして確固たる地位を確立。世界中のキャリアを参加に収め、自分のやりたいようにやっている。唯一アプリケーション部分ではSDKを公開し、オープンで水平分業体制にしたことで、優秀なアプリケーションが集まるような仕掛け作りを施した。
一方のグーグル・Android はプラットフォーム作りに専念、端末の開発はメーカーに任せている。グーグルがやりたいビジネスモデルを実現できるような端末を協業で作っておきながら、OS自体をオープンにして、他の中小メーカーでも安価な端末を作れる環境も構築しつつある。
もう1つの Linux 系である LiMo Foundation は、キャリアとメーカーが中心となって集まり、これまでのビジネスモデルを継承しつつ、オープンな姿を模索している。
Linux 系の流れに危機感を抱いたのが Symbian。これまでクローズドなビジネスモデルでライセンス料を稼いだビジネスモデルから一点、オープンにし、プラットフォームも無償で提供するように方向転換を行っている。
マイクロソフト・Windows Mobile もユーザーインターフェースの部分で iPhone に大きく差をつけられていた。そこで、ユーザーインターフェースは端末メーカーに作らせ、使いやすい Windows Mobile の世界を模索しようとしている。その成果として、ソニー・エリクソンの「XPERIA」やサムスン電子の「OMNIA」が形になっている。
このように俯瞰図が提示されるだけで、最終的な判断は読者に任せられています。「この企業が勝つ!」とスパッと言ってくれた方がラクかもしれませんが、個人的には判断材料だけ揃えてくれて、「君はどう思う?」と語りかけてくれているように感じることに好感が持てました。
ただ1つだけ残念だったのは、LTEなど近い将来登場する技術や、MVNOなど新しいプレーヤーへの言及が薄かったこと。これらの要素も「ケータイの未来」を予想する上で無視できないと思うのですが……けどそこまで立ち入ると、それこそ図鑑のような本になってしまうのかな。
ともあれ本書は、いまの状況をザッと理解するにはうってつけの一冊、と感じました。これからPC・ネット以上に面白い動きが出てくることが必至のケータイ業界、ここらで自分なりの世界観を持っておくとさらに面白くなるのでは。
GとAの名前が本のタイトルに入ってると売れるからつけたんでしょう
投稿情報: かずまん | 2008/09/03 21:35