今週の『週刊東洋経済』(2009年1/31号)は必見かも。特集のタイトルは「テレビ・新聞陥落!」となっていますが、テレビ・新聞に限らず、ネットやケータイ関連のメディア・広告の現状も解説されていて興味深いです。しかもみんな大好き(笑)池田信夫教授が、「新聞・テレビ陥落で始まる『ローコストメディア』の時代」という論文も寄稿してるよ!
それはさておき、日本テレビ放送網の氏家齋一郎氏に対するインタビューも掲載されているのですが、その中にこんな発言があります:
――インターネットの台頭も大きな構造変化ではないですか。
それは違う。多くの人が誤解しているが、インターネットはしょせんハード。問題は、そこにどういうソフトを流すか、だ。たとえばニュース番組。そのソフトの価値を決めるのは、ニュースを集めて選択して価値判断して流す主体が誰なのか、ということ。読売でいえば150年新聞をつくってきた信用であり、その信用と一緒になって55年番組をつくってきた日本テレビの信用。これを直ちにやろうと思っても、何兆円かけたってできない。もし、ブログに書いてある内容をそのまま信じてしまうような人がいるなら、よほど客観的な考え方ができない人だろう。
残念ながら、「テレビ・新聞の信用」は急速に地に落ちようとしています。氏の言葉を裏返して言うなら、「もし、テレビ・新聞が伝える内容をそのまま信じてしまうような人がいるなら、よほど客観的な考え方ができない人だろう」といったところでしょうか。もちろん頭からテレビ・新聞を疑う人、疑うケースが全てではありませんが、ネットがテレビ・新聞の伝えない情報を伝えたり、その誤謬を暴くということが増えてきました。「信用をソースに求め、鵜呑みにしてしまう時代」から、「自分で皆の意見を集め、判断する時代」に変化してきているように思います。
さらに氏家氏の発言は、こう続きます:
インターネットはテレビ放送のように1000万人単位の人が一斉に同じものを見る、という場合には適していない。サーバーを大量に使えば計算上はできるとしても、そんなことしたら高くついてどうしようもないだろう。アーカイブを見るのには向いているかもしれないが、大勢が集中するものは絶対ダメ。パンクしてしまう。
テレビ放送がインターネットに食われるという人がまだいるけれど、まったくのナンセンスだ。
確かに、テレビがラジオを駆逐しなかったように、ネットによってテレビが無くなってしまうことはないでしょう。その意味で「ネットがテレビを食う」というのは大げさな表現ですが、「まったくのナンセンス」でしょうか?
つい先日、米国でオバマ大統領の就任式が行われたのはご存知の通り。そして同じくご存知の方も多いと思いますが、このイベントでは、ネットを介してライブ中継を観たという人が記録的な数にのぼりました:
■ バラク・オバマ大統領の就任式、ネット視聴数も記録に (CNN)
米国史上初の黒人大統領として、第44代大統領に就任したバラク・オバマ氏の就任式典の様子を、インターネットで視聴した人々の数が記録的なものになることが各メディアの統計結果などで明らかになった。CNNでは就任式の20日、約2700万人がストリーミング配信の動画を視聴、昨年の大統領選時に記録した530万人を大きく超えた。
hejihogu さんもこんなエントリを書かれています:
■ オバマ新大統領就任式を世界中に発信した動画配信技術の進化 (北の大地から送る物欲日記)
動画共有サイトも、最初のうちは「こんな汚い動画の質じゃあテレビの敵にはなりえない」的なコメントを見掛けましたが、その後の各動画共有サイトの画質向上は見ての通り、今では画質では最後方を走っていたYoutubeもHD高画質モードを備えるまでになりました。動画配信技術も、今後同様に配信人数や画質が向上していくことと思われます。
これは特例的なイベントであって、氏家氏の言うように「何千万単位の人々に同じコンテンツを同時配信する」というのはまだまだ難しい話かもしれません。しかし hejihogu さんの言う通り、技術の進歩はこれからますます進むはず。またリアルタイム性という点では負けていても、氏家氏も認める通り、ネットでの動画配信には「アーカイブ性」がありますし、またオンデマンドで好きなときに観れるというのも大きな強みです。さらにニコニコ動画のように、疑似リアルタイム性や、それを利用した動画コンテンツの新しい楽しみ方というものが登場してきていることもご存知の通り。「凄くたくさんの人々に同時配信できるんだぞ!どうだスゴイだろ!」という自信は、既に的外れになってきています。
残念ながら、日本テレビ放送網のトップに立つ人物であっても、認識はこの程度。これが彼一人の認識であれば良いのですが、テレビ・新聞業界の中の人に伺うと、ある一定の年齢以上の人々は「ネットは構造変化だ」という危機感を抱いていないようです(あくまでも僕が話を聞いた限りですが)。もちろんテレビ・新聞業界の中にも危機感を抱く若い世代があるものの、上層部が障害になって自由に動けないというケースもあるとか。そう考えると、「テレビ・新聞陥落!」を防ぐ最大の近道は、現在の経営陣が総退陣することかもしれません。
しかし、時代の流れを察知し、それに合うよう脱皮できる能力をもつ人間は、きわめてまれな存在であるのも事実だ。
その理由は、次の二つにあると思う。
第一は、人は、生来の性格に逆らうようなことは、なかなかできないものである、という理由。
第二は、それまでずっとあるやり方で上手くいってきた人に、それとはちがうやり方がこれからは適策だと納得させるのは、至難の業であるという理由。
こうして、時代はどんどん移り変わっていくのに、人間のやり方は以前と同じ、という結果になるのである。
――『マキアヴェッリ語録』より。
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