企業がブロガーに対して金品を与え、見返りにブログで言及してもらうという手法「ペイパーポスト」。これを企業がマーケティング戦略(戦術)の1つとして考慮すべきか否かということについて、意外にも Forrester Research が震源となった議論が起きています。
■ Forrester is Wrong About Paying Bloggers (ReadWriteWeb)
Forrester のアナリスト、Sean Corcoran が中心となってまとめたレポート"Add Sponsored Conversations To Your Toolbox"(スポンサード・カンバセーション:企業がスポンサーになってネット上での会話を起こすことを、戦略の1つに加えよう)に対する ReadWriteWeb の反論。Forrester といえば、ソーシャルメディアを活用したマーケティングの指南書としてこれまで何度も取り上げてきた本『グランズウェル』の作者らが所属していた組織です。それが単純なペイパーポストを奨励するとは思えないのですが、いったいどんなレポートなのでしょうか。残念ながら僕が Forrester のアカウントを失ってしまって久しいので、サマリーを参照してみると:
Kmart gave some bloggers a free shopping spree in exchange for a blog post about the experience — a practice we call sponsored conversation. With appropriate protections for disclosure and authenticity, this practice will take its place alongside public relations and advertising activities in the blogosphere. Marketers should take advantage of sponsored conversation as an entrée into the online conversation. To succeed, you should get to know the bloggers you plan to work with and set expectations across your organization.
Kマートは一部のブロガーに自由に買い物させて、代わりにブログに何か書いてもらうというイベントを行った。これは、私たちが「スポンサード・カンバセーション」と呼ぶ行為の例である。情報開示や信頼性確立といった適切な処置を行うという前提の上で、こうした行為はブロゴスフィアにおけるPRや広告行為の一環として確立されるであろう。マーケターはオンラインで行われる会話の糸口として、スポンサード・カンバセーションを活用すべきである。成功するためには、売り込むブロガーたちのことをよく理解した上で、組織内で目標を共有しなければならない。
とのこと。うーん、「情報開示や信頼性確立を行った上で」とあるので、金品の授受を隠して行うという最悪な形のペイパーポスト奨励ではないようですが、すんなりと受け入れられる人ばかりではないかもしれません。ちなみに上記で言及されている「Kマートがブロガーを動員して」という話、悪名高き? Izea 絡みだったという点も議論を呼んでいる理由かもしれません:
■ Advertising and Trust (chrisbrogan.com)
Today was my day to be front and center of a controversy. Recently, I did a sponsored post about Kmart on my Dadomatic blog. This caught the attention of Jeremiah Owyang of Forrester (in his analyst role), and he raised a bunch of thoughtful questions, so it’s a big topic on Twitter right now. I think it merits a larger conversation, and I want you to be part of it. I want to share my take on the way advertisers and people might interact in the social space.
今日は僕が議論の矢面に立たされた一日だった。最近僕は、僕のブログ"Dadomatic"上でKマートについてスポンサード記事を書いた。これが Forrester のアナリスト、Jeremiah Owyang の注意を引き、彼がいくつか質問を投げかけたので、Twitter 上で大きな論争になっている。これをもっと大きな議論にする価値があると思うし、読者の方々もこの議論の一員になって欲しい。広告主と消費者がソーシャルな空間においてどう交流すべきか、僕の考えを共有したいと思う。
なんと、Forrester の Jeremiah Owyang (昨年来日して講演も行った人物)まで絡んでいたのですか。上記の記事は、この後 Kマートの一件について当事者の側からの解説が行われるので、興味のある方はご覧下さい。しかし同じ Forrester のアナリストも関係している話を持ち出してレポートにしてしまうとは、議論してくれと言わんばかりの行動かも。
以下、若干長くなりますので、少しずつ分割しながら話をまとめます。
【ReadWriteWeb の主張】
ReadWriteWeb では、冒頭でこのように述べています:
We respectfully disagree with Forrester's recommendations on this topic. In fact, we think that paying bloggers to write about your company is a dangerous and unsavory path for new media and advertisers to go down. We recognize that it's a complicated question, but we don't feel convinced by Forrester's conclusions regarding those complications.
Defenders of the tactic argue that it doesn't differ substantially from traditional advertising, that it's effective for advertisers, that bloggers want to profit from their writing and that with proper disclosure there's no loss of credibility for either party.
We disagree with these arguments.
このトピックに関しての Forrester のアドバイスに反対する。実際のところ、自社についての記事を投稿させるためにブロガーにお金を払うことは危険であり、新しいメディアと広告主にとっては正しくない行いである。これが複雑な問題だと理解しているが、Forrester の下した結論には納得できない。
この戦略を擁護する人々は、それが従来型の広告手法と何も変らないものであり、広告主にとっては効果的な手法で、ブロガーは自分の書く記事から収益を上げたがっているのだし適切な情報開示を行えば両者(広告主とブロガー)の信頼性を失うことはないと主張する。
私たちはこれには同意しない。
なぜ同意しないのか。簡単にポイントを箇条書きでまとめてみましょう(僕の解釈も混ぜていますので、一語一句知りたいという方はお手数ですが原文をあたってみて下さい):
- 実効性に疑問。Kマートの例だと、それに乗ったブロガーである Chris Brogan は500ドルのギフト券しかもらっていない。彼がそんな金額で記事を書くことに応じたのは、彼がこれで「実験」をしたかったからであり、読者に本当にKマートを売り込もうとしていたとは思えない。また Chris の読者層は、Kマートにとって重要な顧客層と一致するのか?
- 企業がかつて、お金を払って新聞に記事を書かせていたのと一緒。道徳性に問題はないのか?
- 旧来のメディアでは、広告を集めるセクションと編集部は厳密に分けようと努力してきた。それでもこの区分けは難しかったのに、個人で運営されるようなブログが、明確な分離を確立できるのか?
ちなみに ReadWriteWeb でも「スポンサード記事」を掲載していますが、これは運営しているブロガー達の手によるものではなく、広告主自身が書いた記事を(スポンサード記事だと明記した上で)掲載しているとのこと。確かにこの手法は、記事と広告の分離を明確にする1つの解答になるかもしれません。
【 Jeremiah Owyang の主張】
さらに言うと、前述の Jeremiah 自身もこのレポートについてブログ上で見解を示しています:
■ How To Make Sponsored Conversations Work (Web Strategy by Jeremiah)
Although Controversial, Sponsored Conversations are Here to Stay
Sponsored conversations, although controversial, aren’t going away. In fact during recession, they will likely increase.Despite the demand that brands desire to reach communities, and bloggers desire to monetize and help their community, it’s important this transaction is done ethically and is sustainable for the long run.
議論を招く手法だが、スポンサード・カンバセーションはこれからも続くだろう
スポンサード・カンバセーションは議論を招く手法だが、消え去ることはない。逆に不景気の時期には、この手法を取る企業は増加するだろう。ブランドはコミュニティと接触したいと願い、ブロガーはコミュニティから利益を得てそれに還元したいと願っているものだが、スポンサード・カンバセーションは倫理的に行わなければならず、長期的に存続可能な手法でなければならない。
ということで、スポンサード・カンバセーションが是か非かという議論よりも、それが無くなることはないのだから正しく行われる道を探ろう、というスタンスで議論を続けています。以下、同じく僕自身の解釈をまじえた上で、箇条書きでまとめます:
- スポンサード・カンバセーションの実施にあたっては、情報公開と信頼性確立があることが大前提。
- その前提があっても、スポンサード・カンバセーションは全ての企業・全てのブロガーが行える行動ではない。信頼性を損なわずに記事広告が書けるのか自問してみよう。
- 情報開示を適切に行うことで、批判を招かずにスポンサード・カンバセーションを行った企業も数多く存在する。彼らに学ぼう。
- ブロガーやブログネットワーク全体で、情報開示や信頼性確立に関するルールを共通化すべきた。
また Jeremiah の記事の末尾では、今回の議論に参加しているブログ記事が一覧で紹介されていますので、こちらもご確認を。うーん、もうちょっとまとめの時間が取れれば良かったのですが、駆け足で紹介してしまってすみませんです。
【 で、お前はどう思うの? 】
ペイパーポストに関しては、日本でも大きな議論が巻き起こっていることはご存知の通り。奇遇と言うべきか何というか、タイミング良く海の向こうでも同じような議論が巻き起こったわけですが、日本よりもブログに関する文化が定着していると思われる米国でも論争が起きているぐらいですから、この議論に決着がつくのはまだまだ先のことになると思います。
従って、「以下は現時点での意見です」という免責をした上でのコメントになるのですが。僕個人の意見は、情報開示という大原則を守った上であれば、ペイパーポストを受け入れるかどうかは各々のブロガーと、それを読む読者に任されているのではないかという考え方です。例えば最近でも僕は、EX-Z400の記事を書いていますが、この中で行っている情報開示を読んでいただくことで、記事の内容の信頼性を判断していただけると考えています。もしかしたら、「借りたものである以上、正しい判断などできるはずがない。よって信頼性ゼロ」と感じられてしまうかもしれませんが、そういった意見が多いようであれば行動を改めるかもしれません。しかし中には、「それが明示されていれば、お金をもらっていようが関係ない」という意見が大勢を占めるブロガー/読者コミュニティも存在するでしょう。そういった人々に対して「いや、これは問題がある手法だから止めるべきだ」と言えるのかというと、そこはちょっと疑問が残ります。
その意味で、企業がスポンサード・カンバセーションなる手法を捨てる必要はないと考えます。リスクがある手法であり、積極的に勧めはしませんが、正しく実施される可能性は残されているのではないでしょうか。しかし ReadWriteWeb が指摘するように、個人として企業と向きあわなければならないブロガーが「折れて」しまう危険性があるということを認識しなければなりません。従って僕も含め、「何らかの道が見いだせる」と考える人々は、ルールの確立と、その定着に向けて行動する必要があるのではないか、と感じた次第です。
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