インターネットを通じた生中継、ライブストリーミングが既に日常的な存在になっていることは、このブログ上であれば改めて指摘するまでもないでしょう。先の東日本大震災においても、始まりはなし崩し的でしたが、NHKおよび一部の民放がUstreamを通じた番組配信を行っています。他にもニコニコ動画などのプラットフォームがありますし、YouTubeもこの分野に乗り出したいま、ライブストリーミングはもはや局地的・限定的なメディアではありません。
では今後どんなコンテンツをライブストリーミングに載せるのか?という話ですが、米マサチューセッツ州で興味深いサイトがスタートしています:
■ Reality TV: OpenCourt has begun its livestream of the judicial system (Nieman Journalism Lab)
ボストンの南にクインシーという町があるのですが、ここにある地方裁判所からのライブストリーミングを行うサイトが登場したというニュース。その名も"OpenCourt"という名前のサイトで、当然ながらいま法定で行われている裁判や審問の様子をライブで観ることができます:
まだオープンしたてで数は少ないですが、今日の番組表ならぬ審議スケジュール表や、過去の中継を観ることができるアーカイブコーナー、裁判所スタッフへのインタビュー映像、さらに裁判に関する言葉の用語集などまであり、なかなかキッチリと作られているという印象。もちろん公式のTwitterアカウント(@opencourtus)、Facebookページもちゃんと用意されています。
そして何より驚きなのが、"Open Your Court"と題されたコーナー。意訳すれば「あなたの裁判所もオープンにしよう」といったところですが、実はこのOpenCourt的な取り組みを他の裁判所でも行おうとした場合に、どのような準備をすれば良いのかをアドバイスしてくれるというもの。各種機器類のセットアップ方法から、カメラの持ち込みや映像の記録・公開に関する法律・条例の調べ方など、細かく記載されています。
サイトを開設したのはボストンにあるNPR系列のラジオ局WBURで、ボストン大学やKnight Foundationなども協力しているようです。しかし単に裁判所にカメラを持ち込んでストリーミングするだけでしょ?なんで外部の協力が必要なほど大事になってるの?と感じるかもしれませんが、ご想像の通り、技術的な問題だけでなく法律上の問題も絡んでくるため、一筋縄ではいかないプロジェクトであるとのこと。例えばマサチューセッツ州では法廷の様子をビデオ撮影することは認められていますが、裁判官の判断で中止させることができ、ストリーミングの場合はどうするのか?などといった議論が行われているのだとか。従ってこのプロジェクトも、あくまでもテスト、あるいはパイロット的なものと位置付けられているようです。
日本でも「開かれた司法」などといったテーマに関心が集まることがありますが、裁判の透明性や国民の「知る権利」と、被告のプライバシーや人権をどうバランスさせて行くかというのはなかなか難しい問題です(既にOpenCourtに対しても、アーカイブコーナーを停止するよう地区検察局からの申し立てがあったとのこと)。しかし技術の進歩は立ち止まってはくれません。最近も法廷内からのツイートを許可する裁判所が海外で登場したなどというニュースがありましたが、たとえ難しい問題だったとしても、新しいメディアと社会的システムをどのように組み合わせて行くのかを考えなければならないでしょう。
その意味で、この"OpenCourt"の取り組みがどんな影響をもたらすのかは、私たちも注目して行く必要があるように思います。少なくとも"Open Your Court"のページは、似たように公共の場からのストリーミングを行う際のアドバイスとして参考になるかもしれません。
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