先日、恵比寿にあるブライトコーブ(Brightcove)さんのオフィスにお邪魔し、同社の製品であるコンテンツアプリプラットフォーム「AppCloud」の説明を受けてきましたので感想を少し。
インターネットブラウザが誕生し、普及してからというもの、インターネットといえばウェブサイトのことでした。しかしスマートフォン時代になり、様々な機能がアプリを通じて提供されるようになってからは、次第にアプリがブラウザとウェブサイトの地位を奪い去ろうとしています。以前から「ウェブは死んだ」や「インターネットが死ぬ日」などといった言葉で語られてきた状況ですが、もっと直接的に「アプリ・インターネット」という表現も使われるようになってきました。
しかし「アプリ・インターネット」への移行が急速なために、肝心のアプリ制作を担う技術者の数が足りないという状況が起きています。しかもiOS、Android(×メーカー毎のバリエーション)、BlackBerry OS、Windows MobileなどなどOS毎の対応を行う必要もあり、「十代の若者がアプリ制作で大儲け!」などという景気の良い話が飛び交う一方で、企業としてアプリ提供を行うには大きな労力がかかるという現実があります。こうした状況に対して、海外ではアプリ制作支援ツールを提供する企業や、アプリ制作技術者を派遣する企業などが現れてきました。
そしてブライトコーブのAppCloudも、そんな支援ツールの1つ。HTML5をベースにiOSおよびAndroid向けのアプリを開発することができ、さらにテンプレートのカスタマイズによる開発も可能なため、社内にいる既存の人材でもアプリ化対応を進めることができます。またアプリ内にある各種コンポーネントの最適化や、モバイル広告プラットフォームであるAdMobの埋め込みなども可能とのこと。ただツールの優位性や使い勝手の良さについては、僕自身が開発者ではないため、公式サイトをご覧になって判断していただければと思います。
ただ1つ言えるのは、こうしたツールが発展することによって、企業はより付加価値の高いアプリ開発へとリソースを振り分けができるという点でしょう。どんなに開発支援ツールが発展したとしても、エンターテイメント系の分野で見られるような、アーティスティックなアプリを作ることはできません。逆にツールが普及すればするほど、そこでは開発できない、オリジナリティのあるアプリを生み出そうというニーズが高まるはずです。しかし全てのアプリが、そのようなオリジナリティを要求するわけではありません。イベントやキャンペーンのような、とにかく注目を集める必要のある場合には、熟練の技術者やデザイナーによる手作り開発のアプリで。日常的な告知を行う場合には、平凡でも手間をかけず、必要十分なアプリで。開発リソースが貴重な状況では、そういった切り分けが進むのではないでしょうか。
AppCloudは海外で先行して提供が始まっており、これを利用して実際に作成・配布されているアプリを見せてもらいました。あるテレビドラマをPRするアプリなのですが、奇抜さはないものの、番組に関するお知らせ(当然ながらアプリ提供側で動的に更新が可能)など必要な部分がきちんと押さえられています。さらにごく僅かなリソースでこの程度のアプリが作れるのであれば、番組やブランド単位でアプリを提供するなど、横への展開という可能性を感じさせるものでした。
さらに重要なのは、AppCloudに作成したアプリのリアルタイム分析機能が設けられているという点です。
アプリ開発者のリソースが足りず、また支援ツールもない状況では、アプリは「作りっぱなし」という結末を迎えがちです。ウェブサイトは充実しているのに、アプリで提供されているのは申し訳程度の機能やコンテンツ、という企業を目にしたという経験がある方は多いのではないでしょうか。しかし作り込んだキャンペーン用アプリはさておき、日常的なコミュニケーションを行うためのアプリを簡単に開発・コンテンツ更新・メンテナンス可能になれば、次は「いかにリリース後の運用面で効果を上げて行くか」という面に注目が移るはずです。その際にアナリティクス系のツールが用意されているというのは、大きなポイントになるのではないでしょうか。
ちょうどブログが登場した時にも、それによってウェブサイトが「頻繁に更新するもの」へと変わり、運用における効果測定を行うためにアクセス解析ツールが注目される、という流れがありました。ウェブ・インターネットに対してブログが与えたのと同じような影響を、アプリ支援ツールはアプリ・インターネットに対して与えて行くのかもしれません。
アプリ化の傾向は、今後テレビの世界にも及ぶと考えられています。少なくとも企業にとって、アプリ対応はますます避けることのできないテーマになるでしょう。開発支援ツールに対する注目もさらに高まり、その優劣は「対応OSの数が多いかどうか」といった開発フェーズにおける機能面だけでなく、「効果測定が支援されているか」「コンテンツ更新を効率化する工夫があるか」など、運用フェーズにおける機能面でも競われるようになるのではないでしょうか。
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