年末ですが空いた時間を利用して、積ん読状態だった本を少しずつ片付けています。今回の"Demand: Creating What People Love Before They Know They Want It"もその一つ。『ザ・プロフィット 利益はどのようにして生まれるのか』などの著作がある、エイドリアン・スライウォツキーの新刊となります。
タイトルを訳すとすれば、「需要:消費者が求めるものを、消費者自身が気付く前につくり出すには」となるでしょうか。ウォークマンやiPhoneなど、世の中には「求められていなかったけれど世に出てみたら大ヒット」という商品/サービスが存在しています。そんなヒットを生み出すにはどうすれば良いのか、本書は数多くの事例を基にケーススタディ形式で考察して行きます。
誤解を恐れずに言えば、そこから得られるいわゆる「成功するための~のポイント」的な話は平凡なものが多く、どこかで聞いたことがあるアドバイスだな、と感じることも少なくありませんでした(それだけ奇をてらっていないということにもなりますが)。しかし本書の良い点は「これを実行すれば大ヒット間違いなし!」というような万能薬を提示して終わりではなく、結局のところ、地道な対策の積み重ねを続けて行くことが「隠れたデマンド」への道であることを示している点です。フィードバックを繰り返す中から成功への道を掴むという点では、今年読んだ2つの本、"Little Bets"と"Adapt"を彷彿とさせるところがありました。
いやいやそんな当然の結論じゃ読む意味ないし、と思われてしまうかもしれませんが、本書の価値はその当たり前の重要性を、ケースを詳細に解説することで追体験させてくれるところにあります。特に冒頭のZipcarや、繰り返し登場するNetflixの事例は、彼らの成功が単に「素晴らしいビジネスモデルを思いついたこと」にあるのではないと教えてくれるでしょう。もちろん素晴らしいアイデアも必要なのですが、消費者の欲求を引き出すという最終ゴールの前では1つの要素に過ぎず、むしろ他の要素の重要性から注意を奪ってしまうという危険性も持ち合わせています。それはベンチャー企業のビジネスモデルを表層的になぞっただけの大企業が、力業では負けるはずのないベンチャー企業に圧倒されるという事例が多いことからも明らかです。
「デマンド」が潜在的なものに留まっているということは、逆に言えば何が消費者の支持を得、ゲームに勝つポイントなのかが明らかになっていないということを意味します。その段階で「この製品はより美しいディスプレイを搭載し、処理速度も速く……」といったスペックを論じても意味がありません。しかし未だに企業内だけでなく、専門メディアですらスペック論の視点からある製品/サービスの成否を占うということが続けられています。本書"Demand"で描かれる様々な企業の物語は、それがいかに短絡的な発想であるかを教えてくれるでしょう。
ということで「ロングテール!」「フリー!」的な目玉コンセプトが軸になる、「売れやすい」本ではないと思うのですが(タイトルからして「デマンド」だけだし)、事例集と思えば使える一冊だと思います。手にする機会があれば是非。
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