Web 2.0系アプリケーションは、ユーザー数が53,651人を超えたところで「キャズム」に直面する・・・という"Crunch Chasm"なる理論が登場しました:
■ 53,561 (Redeye VC)
■ Crossing the Crunch Chasm (Infectious Greed)
"Crunch"とはもちろん、Web 2.0系アプリケーションを紹介するブログとして一躍有名になった"TechCrunch"から取られたもので、53,651という数字はTechCrunchの購読ユーザー数(FeedBurnerアイコンで表示されているもの、ちなみに5月14日午前0時現在では51,466)から来ています。つまりTechCrunchを購読している人々はキャズム理論で言うところの「イノベーター」「アーリーアダプター」にあたるセグメントであり、彼らをファーストユーザーとして取り込むのは簡単---乗り越えるべきキャズムはその先に待っている、というわけです(個人的にはTechCrunchの購読者はイノベーター層がほとんどだと思うのですが・・・)。
53,651という具体的な数字は冗談としても、確かにWeb 2.0系アプリケーションはその性質上、数万人単位のファーストユーザーを集めることはそれほど難しくないのでしょう。僕もTechCrunchで紹介された新サービスは(クローズドベータのものを除いて)ほとんどユーザー登録しているクチですから、「TechCrunchに登場したWeb 2.0企業が一夜で膨大なユーザー数を稼ぐ」という状況が実感できます。日本の状況に置き換えてみると、さしずめ「はてなコミュニティ」が近い位置にいるのかなぁと思い、このエントリのタイトルを「はてなキャズム」としてみました。
Crunch Chasm、あるいは「はてなキャズム」が存在しているのは、Web 2.0系サービスにとって不幸なことなのでしょうか。僕は必ずしもそうではないと思います。あらゆるハイテク製品にはキャズムという「メジャー市場に進出するために乗り越えなければならない障壁」があるものですから、キャズムの存在自体は特別な問題ではありません。むしろキャズムの手前にある市場では、一気に浸透を図れる手段があること(TechCrucnhに取り上げられる、「はてブ」でブックマークを稼ぐなど)は好ましい状況であると言えるでしょう。
問題はイノベーター、あるいはアーリーアダプター層でユーザーベースを稼ぐことが簡単であるが故に、メジャー市場との乖離が通常のハイテク製品の場合よりもさらに広がってしまうことではないでしょうか。言ってみれば、"Crunch Chasm"は通常のキャズムよりもさらに深い谷なのではないかと思います。
例えば簡単に数万人規模のユーザーが集まってしまうと、「このサービスは上手く行っている」という幻想を抱いてしまいます。一度得たユーザーを逃すまいと、ファーストユーザーの声(すなわち、メジャー市場の人々が抱いているものとは異なるニーズ)に答えることに没頭し、固執してしまうかもしれません。さらに悪い場合には、「ブログで紹介されてたから」「みんながブックマークしてたから」という軽い理由で登録したユーザーのデータがノイズとなってしまい、真剣に声を聞くべき相手が見つからない---という可能性も考えられます。
結局、"Crunch Chasm"も通常のキャズムの場合と同様、メジャー市場で相手にするのはファーストユーザーとはまったく異なる人々だということを認識するところから始めなければならないのでしょう。相手はFlickr、YouTube、del.icio.usはおろか、はてな、ドリコムすら聞いたことがなく、ようやく最近『ウェブ進化論』を読んだというような人々です。ブログやSNS、コミュニティサイトを通じて意見を聞くなどということはできません。そんな市場にどうやって浸透を図るのか(あるいはキャズム以前の市場で採算が取れる道を探るのか)を注意深く考える必要があると思います。
<追記>
久々に追記。"Crunch Chasm"セオリーからWeb 2.0の未来へと発展させて論じている記事があったので、ご参考にどうぞ:
■ The Myth, Reality & Future of Web 2.0 (GigaOM)
ついでにDave Winer氏のコメントも:
■ The 53,651 Debate (Scripting News)
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