ううむ。海の向こうで大論争となっているこの話題、自分でも考えておこうと思います。まず TechCrunch の記事に概要が説明されているので、そちらからどうぞ:
■ 私生活を大事にする人間はクビにしろ、とツボを説くカラカニス (TechCrunch Japanese)
つまり Jason Calacanis がブログで「ワーカホリックじゃない奴はクビにしろ」という趣旨の発言をしていて(元記事)、それに 37signals の David Heinemeier Hansson が「ワーカホリックこそクビにしろ」という反論を行っている(元記事)、という話。その他、議論に参戦している人々の主張は Techmeme @ 2:00 AM ET, March 8, 2008 などからどうぞ。
いちおう、いま現在の Jason Calacanis Weblog を読むと、文章が以下のように訂正されています:
11. Fire people who
are not workaholics.don't love their work... come on folks, this is startup life,it's not a game. don't work at a startup if you're not into it--go work at the post office or stabucks if you're not into ityou want balance in your life. For realz.(11) 自分の仕事を愛していない人をクビにしろ。頼むよお前ら、これはベンチャーでの生活なんだぜ。夢中になれない仕事なら、ベンチャーでなんか働くな。郵便局かスタバででも働きな。
「TechCrunch で論争を呼んでしまったので、別記事で反論した上で、11番目のポイントを穏やかな表現に書き直し、自分の本当の気持ちに近くなるようにした」とのこと。ということで、訂正された方をベースに考えてみたいと思います。
【Jason Calacanis の主張】
そもそも Jason が書いたのは「ベンチャー企業を運営する上でコストを節約する方法」というアドバイス集で、以下の18項目になります(免責:意訳と省略あり、詳しくは原文を!):
- Mac を買って、IT部門への投資を抑えよ。
- 皆に2台目のモニタを買ってやれ。3年で$6,000分の効果が出るし、チームメンバーがハッピーになる。
- 昼食を買ってやれ。外に食べに行く時間を節約できる。昼食の時間にミーティングをすればさらに時間の節約になる。
- 安いテーブルを買い、高いイスを買え。イスは重要だから、ちゃんと投資しろ。
- デスク備え付けの電話はいらない。誰も使わないから。コミュニケーションの99%は電話ではなく、別の手段で行われる。
- オフィスの無駄なスペースは、誰かに貸し出せ。
- 経理と人事はアウトソースしろ。
- Microsoft Office を買うな。Google Docs を使え。
- Gmail を使え。
- 一番働いている社員には、自宅用PCを買ってやれ。
- 自分の仕事を愛していない人をクビにしろ。
- エスプレッソマシンは高いものを買え。スタバに買いに行かれると時間がムダになる。
- 冷蔵庫にソーダを入れておけ。理由は同上。
- 時差出勤を認めよ。ラッシュ時の通勤は時間のムダ。
- 6~9ヶ月毎に、使っている業者に10~30%のコストカットを求めよ。仕事を失うかもしれない、と思えばディスカウントに応じてくれるものだ。
- リクルーターを使うのはお金のムダ。linkedin や Facebook がある。
- PR会社に仕事を依頼するよりも、PRコンサルタントを雇う方が安上がり。
- 米国中央部にアウトソースしろ。
……ということで、TechCrunch の引用はちょっと誤解を招くかも。社員を搾取しろ、というより、効率的な時間とお金の使い方を考えろっていうアドバイスだと思います。「電話は渡すな」だって、「電話代を節約するため」というより、「デスクの電話は使わないし、そもそもいまは電話の時代じゃないだろ」ってことですよね(少なくとも米国のITベンチャーの世界では)。
【David Heinemeier Hansson の主張】
一方、David は「ワーカホリックが必要か否か」という点に対し、こんな反論をしています(同じく意訳と省略あり):
- ワーカホリックは「1日14時間働く」と口では言うが、ずっとそんなには働けない。燃え尽きる時が来る。
- ワーカホリックは問題解決に全てを注ごうとする。クリエイティブな仕事では、そんな方法ではすばらしい仕事はこなせない。
- 遅くまで働く人は、周囲の人々を、適度な時間で切り上げることが悪いことであるような気分にさせる。そうすると、義務感だけで残業する人が現れ、生産性が下がる。
- 働いてばかりだと、価値観が健全でなくなる。良い仕事をするには、「それって意味があるの?」という問いに対して正しい判断が下せないといけない。
- 面白い人々と働くのは、単に働くよりも面白いことだ。仕事してばかりでは、チームをまとめるための食事会はつまらないお喋りの時間となってしまう。僕はチームメンバーの私生活の話が聞きたい。
という内容。こちらはまさに「ワーク・ライフ・バランスの話」といった感じで、「良い仕事をするには、遊びや家族と過ごす時間も大切だよ」ということですね。
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という訳で、2人の主張は根本的にかみ合っていない感じがします。Jason は「ムダを省け」で David は「仕事以外も大切にせよ」ですから、そもそもまったく違うことを論じているわけです。恐らく Jason の失敗は「ワーカホリック」という言葉を使ってしまったことで、彼は「仕事だけをする人が必要だ」というより「ワーク・ライフ・バランスを言い訳にして怠けるような人」を切れ(ベンチャーという体力の弱い会社を守るために)、と言いたかったのでしょう。起きている間は仕事しかしない人、というのは Jason もいらないと言う、はず。
なのでどちらの議論も賛成、と言いたいところですが、心情的には Jason の方に賛成します。そもそも「ベンチャー企業で」という前提の下ですから、ワーク・ライフ・バランスなどと言っていられない状況がどうしても起きるはず。その時に会社を選んでくれる人を大切にしろ、と言うのは経営者として間違っていないような。もちろん常に家庭を犠牲にしろ、という会社は論外で、常に従業員をそんな状況に置いているようでは、そもそもその会社に将来がないと思いますが。少なくとも「従業員がスタバに行く時間を節約するために、コーヒーの味なんて分からない奴を雇え、そうすれば高いエスプレッソマシンを買う必要もない」などと言い出していない時点で、Jason のアドバイスは間違っていないと思います。
< 3月9日追記 >
論争はまだ続いています。Robert Scoble らも参戦し、Jason を擁護する声も聞かれてきました。シロクマ日報でまとめましたので、よろしければどうそ:
■ ベンチャー企業では、家庭を犠牲にしなければいけないのか? (シロクマ日報)
< 3月10日追記 >
その後 Dave Winer らも議論に参加し、締めとなるようなエントリが Fred Wilson によって書かれました。追加記事を書きましたので、こちらもどうぞ:
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