災害時、ソーシャルメディアにSOSを書き込んだおかげで誰かが気付き、無事に救助された――といった話は、7月に出版した『災害とソーシャルメディア』でいくつか紹介していますが、その後に起きた様々な事件・事故でも同様のケースが発生しています。では実際のところ、ソーシャルメディアを「110番/119番」的に活用する可能性はあるのか?というテーマに関して、米国で面白い調査結果が報告されています:
■ Twitter provides medical insight, research says (The Daily Pennsylvanian)
ペンシルバニア大学のPerelman School of Medicineが発表した研究結果について。Twitterのツイートを集めて分析するという、最近すっかりお馴染みとなった手法ですが、今回サンプルとして選ばれたのが心停止(cardiac arrest)やCPR(心肺停止の蘇生救急)、AEDなど「心臓が止まる」という状態に関連する言葉。これらの言葉を含むツイートが60,000件集められ、分析が行われました。
日本語でも「好きな芸能人に会って心臓が止まりそうになった!」などと表現することがありますが、英語でも同様で、「心停止」という言葉を含んでいるからといって必ずしも健康状態の悪化をつぶやいているのではないとのこと。では冗談以外がどの程度含まれていたのか、という点ですが:
Although there were a lot of these joke tweets, about 25 percent of the 60,000 tweets “had real information … actually talking about real symptoms, locations about events, or articles related to cardiac arrest,” Merchant said.
冗談ツイートは数多く存在していたものの、Merchant氏(※研究チームの一員であるRaina Merchant准教授)によれば、60,000件中約25パーセントのツイートが「心停止の症状や発生場所に関する本当の情報、もしくは関連記事について語っていた」とのことである。
とのこと。25パーセントという数字を大きいと見るか小さいと見るかは微妙なところですが、少なくとも人々がソーシャルメディア上で健康を話題にすることが定着してきていると言えるでしょう。また研究チームはさらに詳細な研究を行い、語られている内容について分析・分類を行ったそうです。それによると、実際の心停止状態に関する詳しいツイートが共有される例もあったとのこと。研究者たちはそうした分析結果に基づいて、Twitterを介して情報提供を行う可能性について検討しています:
In a future study they hope to look at what happens when they actually send information to people answering their questions related to cardiac arrest. “We want to look at what sorts of messages we can provide to people when they tweet and ask a question and sort of trying to track the information that’s actually useful,” Merchant said.
研究者らは、今後の研究で「心停止に関する質問に対して答えを提供する」という行為を行った場合にどうなるかを調べようとしている。「人々がツイートして質問を投げかけた際に、どのようなメッセージを提供することができるのか、あるいはどのような情報が実際に役立つのかについて研究してみたい」とMerchant氏は述べた。
体の不調(自分に限らず、家族や知人の場合もあるでしょう)を訴えると、何らかの助言を与えてくれる――突然そんなことをされたら気持ち悪いでしょうが、事前に同意してモニタリングサービスに参加している、という状況ならありなのではないでしょうか。僕はひどい偏頭痛持ちなのですが、何気なく「目が回る感じがする」とつぶやいたら適切な対処法が@リプライされてくる、的なサービスがあったら参加してしまうかもしれません。
そこまで精度の高い分析・リアルタイムの監視が可能なのか、という問題は残りますが、実際に特定の話題に関するツイートを高精度で抽出する技術が開発されています。さらに医療関係者の間で上記のような研究が行われているという点が、将来「ツイート健康診断」的なサービスが登場する可能性を示しているのではないでしょうか。あるいは日頃から体調についてツイートする、そんな習慣をつけることが健康維持や医療行為の一環として行われるようになる時代も来るかもしれません。
災害とソーシャルメディア ~混乱、そして再生へと導く人々の「つながり」~ (マイコミ新書) 小林啓倫 毎日コミュニケーションズ 2011-07-26 売り上げランキング : 176691 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
コメント