クリス・アンダーソンの新刊も予定されているということで、2013年にかけて3Dプリンタ界隈が騒がしくなるだろうと見守っているわけですが、彼の言う通り「21世紀の産業革命」まで起きるとなると政策レベルでの対応が必要になってきます。ということで、英国ではBig Innovation Centreという団体が、政府に対してこんな提言を行っていたり:
■ Three Dimensional Policy: Why Britain needs a policy framework for 3D
Big Innovation Centreとは英国の非営利団体The Work Foundationとランカスター大学のイニシアチブで2011年に設立された団体で、官民学共同で様々なリサーチを行い、英国をイノベーションの中心地とするための提言を行ってゆくことが目的だそうです。ともあれ彼らが3Dプリンタのポテンシャルに光を当て、それに関連して起きるであろう問題(先日も3DプリンタにDRMをかけるなどという話がありました)に対応するため、英国政府が制度面などでの整備を進めるようにアドバイスしています。
例えば政策上の主要課題として、次の6つのカテゴリを挙げています:
- 知的所有権:3Dプリンティングの成功にはオープン性を維持することが欠かせないが、製造業のより深い部分に関与してゆくためには、コピーの恐れを取り除く仕組みが必要になる
- 製造物の規制:抑圧的な制度は望ましくないが、3Dプリンタで銃を作ったりするなどの動きもあり、危険な物品が製造されないよう規制をかけてゆく必要がある
- 製造者責任:3Dプリンタで製造したものが何らかの事故を起こしたとき、その責任がどのような形で誰に発生するのか、ルールを整備する必要がある
- 基準・標準:製造される部品の形状や製造方法といった要素に対して基準・標準を定め、3Dプリンティングに関わる企業が共同作業できるようにしたり、消費者の信頼を得たりといった状況を促進する必要がある
- 素材:3Dプリンタの潜在力を発揮するためには、適切な素材が使われる必要があり、新たな素材を開発するコンペを行ったりしてイノベーションを促す必要がある
- インフラ:3Dプリンタは様々なインフラにも影響を及ぼす可能性があり、そこに何が要求されるか、政府はどのような役割を演じるべきかを検討する必要がある
いずれも一筋縄ではいかないテーマばかりですが、だからこそいち早く議論を始め、環境整備を進めてゆかなければならないのでしょう。それに成功した国が、3Dプリンティングの持つ革新性を最大限に発揮できるはずです。
18世紀の産業革命においては、「ユグノー」と呼ばれる人々をめぐる政策の違いが各国の成否に間接的に影響したと言われています。ユグノーとはキリスト教の教派の一つ(プロテスタント)で、金融や商工業の担い手として重要な存在だったにも関わらず、フランスはナントの勅令廃止(1685年)によりカトリックを重視する姿勢に。迫害を恐れたユグノーはフランスを離れ、英国やオランダなどの周辺諸国に流出した結果、フランスの産業が立ち遅れることにつながったのだとか。逆にユグノー受け入れを進めた英国は、彼らの持つノウハウで発展し、産業革命を達成することになった――と昔大学で習いました(笑)。今回の「21世紀の産業革命」でも、移民政策が影響を及ぼすかはさておき、政府の決定がその後に大きな違いを生むことになるかもしれません。
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