10月に文藝春秋さんから出版された『卒アル写真で将来はわかる』を頂戴しました。ありがとうございます。ということで、簡単に感想などを。
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本書の原題は"The Tell: The Little Clues That Reveal Big Truth About Who We Are"(テル――小さなヒントが私たちの本性を暴く)。"Tell"が何を意味するのかについて、訳者あとがきで次のように解説されています:
tell(テル)とはポーカー用語で、自身の持ち手を対戦相手に知らせてしまう表情やしぐさなどを指す。たとえば、対戦相手のほうが強い手を持っているときにかならずまばたきをするとか、ブラフをかける(弱い手でありながら、はったりをかける)ときにはチップをいじるといった癖がそれだ。ポーカー・プレイヤーはそういった癖を瞬時に見て取り、相手の手を予測するのだそうだ。
本書はこうした「テル」が、ポーカー以外の様々な分野にも潜んでいることを、様々な研究成果を引用しながら明らかにしていきます。
たとえば邦題にもなっている「卒アル写真から将来を予測する」という調査。大学の卒業アルバム写真を何百枚と検証し、写っている人々がどれほど本気で笑っているのか(目の周りにある筋肉の収縮から判定)を確かめてから、20代前半から80代後半までの卒業生に結婚が破綻したかどうかを尋ねたところ、満面の笑みを浮かべていた人に比べてさほど笑っていなかった人の離婚率は5倍にのぼったのだとか。
またCEOの写真を被験者に見せ、そのCEOの力(能力・統率力・成熟)やリーダーシップなどについて直感的に判断してもらったところ、力を感じさせるCEOが経営する企業は多くの利益をあげている傾向が見られたそうです。この研究では、「顔による成功予想は、男性CEOにも女性CEOにも適合する」という結論が導かれ、さらに顔写真以外の情報を知らない被験者の方が正確に分析できると指摘しています。
ただ多くの実験では、ある「テル」すなわち小さな事象と、予測したい現象(離婚や業績など)との間に相関関係があることが示されるだけで、因果関係については仮説が述べられているに過ぎません(因果関係まで別途研究されている事例もあります)。また「テル」は文化や人種による違いがあることも認められていて、たとえば先ほどのCEO顔写真の研究は主に白人CEOを対象にしたものであり、日本人や黒人を対象にした場合には違う結果が出る可能性があると述べられています。
こうした限界はあるものの、個人的に本書を興味深く読むことができました。同じことを感じられる方も多いと思うのですが、上記のような「一見無関係だと思われる、あるいは些細すぎて見逃されている事象と、重要な現象との相関関係を見出す」という行為は、いわゆる「ビッグデータ」やデータ分析の世界でいま盛んに行われている取り組みです。またこれまでは記録されることが少なかった「些細な事象」は、いまやソーシャルメディアやセンサー、モバイル/ウェアラブル端末といったテクノロジーを通じてデータ化されるようになっています。であれば、本書で紹介されている実験的な研究は、今後当たり前の行為になっていくのではないでしょうか。
たとえば本書の中に、「ゲイダー(ゲイ探知能力、ゲイ+レーダーの造語)」という話が登場します。パートナーを探している異性愛者(特に女性)は、間違って同性愛者を捕まえてしまうと、それまでのエネルギーが無駄になってしまう。そこで人間は、表面的に現れる些細な事象(表情や身振りなど)から、相手が異性愛者かどうかを感知する「ゲイダー」を持っているのではないか――という仮説のもと、様々な研究が行われ、実際にゲイダーの存在を裏付けるような結果も出ているそうです。この場合、表情や身振りなどが「テル」というわけです。
で、数年前のことですが、MITの学生がFacebookに投稿された情報から投稿者がゲイかどうかを判別する技術を開発した、という話がありました。この技術にも「ゲイダー(Gaydar)」という名前が与えられていたので、思い出したという方も多いのではないでしょうか:
■ Facebook Gaydar Emerges From Breakthrough MIT Project (Gawker)
The best part of Carter Jernigan and Behram Mistree's software, created for a research project, is that you don't even need to "friend" your target to figure out if he's gay. You simply need access to his friends list, which is made public by default on Facebook. In the students' test, which examined 947 profiles, the program identified all 10 of 10 men the students knew to be gay, but who had not declared so on Facebook, according to a summary in theBoston Globe.
Carter JerniganとBehram Mistreeによって開発されたソフトの素晴らしい点は、ゲイかどうかを判定したい相手と「友達」登録していなくても構わないという部分だ。単に彼のFacebook上の友達リスト(デフォルトでは公開される設定になっている)にアクセスできれば良いのである。ボストングローブ紙によれば、947名のプロフィールを使って行われた実験の結果、事前にゲイだと分かっていた10名の男性全員をゲイと判定できたそうである(彼らはゲイであることをFacebook上では宣言していなかった)。
実はこの際に開発された「ゲイダー」の精度はそれほど高いものではなかったという話もありますし、当然ながら本人が明らかにしていない情報を暴くことに対する倫理的な批判もあります。しかしデータ関連技術の進化により、今後さらに多様な「テル」が増えていくこと、そしてその「テル」が発見される可能性が高まることを考えると、似たような話はこれからも続くことでしょう。
ポーカーの「テル」ですが、さらに優秀なプレイヤーになると、偽の「テル」を駆使して相手を惑わすこともあるそうです。本書の中にも、大学生が講師を評価する際にどのような部分を見ているかを把握することで、評価を上げようとする試みが出てくるのですが、こうした騙し合いも盛んになるのかもしれません。
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