ということで、先日映画『インターステラー』の試写会があり、上映時間169分という長編を観てきました。なるべくネタバレせずに、簡単に感想などを。
舞台は近未来の地球。具体的に西暦何年かは(僕が覚えている限り)劇中で明らかにされていませんが、「主人公がもう数十年早く生まれていたら、宇宙開発の世界で活躍できていたのに」的なセリフから、いまから数十年以内の話であることが分かります。また近未来といっても、ユートピア的なハイテク世界ではなく、気候変動や穀物の不作で「人類滅亡が具体的な危機として迫っている」というディストピアが描かれるところから話が始まります。
主人公のクーパーは、かつてNASAでテストパイロットを務めながら、現在は片田舎で農夫の父親と一緒に暮らしているという設定。他に家族として、2人の子供(兄&妹)が登場します。で、前述のように劇中の地球は危機に瀕しており、そんな状況で求められるのは宇宙開発などという絵空事ではなく、農家として食糧不足の解消に少しでも貢献すること(実際、詳しく書きませんが、とある史実が「ねつ造」として伝えられているという設定になっていて、この世界が非常に病んでいることが示されます)。クーパーはエンジニアとしての才能も持っているのですが、それすらこの世界では重視されておらず、彼が抱いている閉塞感や絶望感がひしひしと伝わってくる……
ところがいろいろあって、クーパーは再び宇宙飛行士となり、「絶望的な状況の地球に代わる居住可能惑星を、他の星系に探しに行く」というミッションに参加することになります。ただ当然ながら家族を連れて行くことはできず、長期にわたる星間(interstellar)航行の間、家族とは離ればなれになることに。いや、生きて帰ってこれるという保証すらないので、これで永遠の別れになってしまうかもしれない……という状況の中、クーパーと家族(特に10歳の娘のマーフ)は何を考え、どう生きていくのかが描かれます。
正直言って、この「他の星系で居住可能な惑星を探す」という部分、特に実際の宇宙船での移動や生活が描かれる部分については、科学的にどこまでの現実性があるのかは分かりません。もちろんドラえもん的な完全ファンタジー描写ではなく、専門家のアドバイスを受けながら、ちょうど映画『ゼロ・グラビティ』と同じような「現実風」の味付けがなされています。しかしあくまで娯楽作品なので、ご都合主義の流れもあり、これも『ゼロ・グラビティ』の時と同じような、科学的な正しさをめぐる論争が起きてくるのではないかと思います(実際に海外サイトの記事でこの種の議論がチラホラ)。
僕自身は、この辺りは「そんなものか」と割り切ってみていました。科学ドキュメンタリーを見に来た訳ではないですし、様々な設定も、すべて「家族愛」(と書いてしまうと陳腐ですが)などの主要テーマを描くための前振りでしょう。ただ前振りであってもできる限り正しくしてほしい、という意見も分かりますし、僕も様々なプロットが本当のところはどうなのかについて興味があります。投げやりな言い方かもしれませんが、最終的には趣味の問題になるのではないでしょうか。
ともあれ、個人的には非常に楽しむことができました。科学的に正しいかどうかはさておき、宇宙と地球という絶望的な距離で引き裂かれた父と娘の関係、宇宙に出ようが地球に残ろうがわずかな望みしかない絶望感が、静かなリズムで描かれていきます(特にSEや音楽については、あえて静けさを演出している部分があるとのこと)しかし終盤に向かうとともに、物語が激しく動き出すため、意外なスリルを味わうことになるのではないかと思います。
特に僕自身、マーフと同じ10歳の娘を持つ父親なので、最初からクーパーに感情移入しっぱしの2時間50分でした。僕なら途中で絶対に心が折れてるはず(てか別れのシーンで「やっぱやめるね」って言ってしまいそう)。これもネタバレ回避のために詳しく書きませんが、星間航行出発後にクーパーが家族からのメッセージを受け取るシーンでは、幾度となく目頭が……てかクーパーとマーフの関係をめぐるシーンの全てで、胸に迫るものを感じていたわけですが。
しかしそれを描くのに169分が必要だったのか、またこのストーリー展開で良かったのかと言われると、確かに疑問は感じます。もちろん家族愛だけがテーマではなく、ロボット萌えな人にはたまらない展開とかもあるし、いろいろ盛り込んでの169分だったのでしょう。なだけに、もう少しテーマを絞って、シンプルにしても良かったのではないかぁと感じました。ハリウッド映画のシステムでは、それは望むべくもないのかもしれませんが。
とはいえ繰り返しになりますが、個人的にはお気に入りの作品でした。同じく娘を持つお父さん方はぜひ劇場に足を運んで、精神をズタズタにされてみると良いのではないでしょうか。また前述のように思いがけない展開や、意外な人物の登場もありますので、思ったほどは長さを感じないと思いますよ。映像も非常に美しいですし、もう一度お金を払って、劇場でIMAX版を観てみたいところです。そのときには、娘を誘ってみよっと。
インターステラー (竹書房文庫) グレッグ・キイズ クリストファー・ノーラン ジョナサン・ノーラン 富永 和子 竹書房 2014-11-21 売り上げランキング : 38765 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
コメント