ZDNetのブログ"IT Facts"から。音楽のバラ売りが定着しつつあることをうかがわせるニュース:
CD and digital album sales down 8% in 2005 (ZDNet.com)
短いニュースですが、ポイントだけ並べると、
- 2005年のCDとデジタルアルバム(音楽配信サイトでアルバム1枚分をダウンロードすること?)の売上げは、2004年に比べ8%ダウンした。
- 2005年には3.2億曲(2004年の1.5倍)が音楽配信サイトを通じて販売された。
- 音楽配信サイトを通じて販売された曲を10曲で1つのアルバムとカウントした場合でも、CD/デジタルアルバムの売上げは2004年に比べ約5%ダウンしている。
とのことです。原文では"Sales"となっているところ、売り上げ「金額」と売り上げ「枚数」のどちらを指すのか微妙ですが、文脈から見て売り上げ「枚数」を指していると解釈しました。元となったNielsen SoundScanのデータが見つけられれば良かったのですが・・・。また他のニュース記事(例えば、Concord Monitor "CD sales down, downloading up")を見ると、どうやらアメリカ合衆国とカナダ国内に限定したデータのようです。
この結果を招いた要因としては、P2Pなど無料で(場合によっては違法に)音楽を手に入れることが容易になっていることや、音楽そのものに対する興味が失われていることなど、様々な点が考えられるでしょう。僕はそれに加えて、音楽の「バラ売り」が定着しつつあるという仮説を立てておきたいと思います。
シングルという販売方法はあったものの、これまで好きな曲を手に入れるためには、その曲が収められたCDを買うしかありませんでした。シングルにしても、聞きたい曲に加えて、他の曲も何曲か一緒に買わなくてはならなかったわけです。ニュアンスは違うかもしれませんが、これはいわば「抱合せ販売」のようなものでしょう。「好きなアーティストの曲なのだからいいだろう」と言われるかもしれませんが、例えばExcelを買おうとしたら「Microsoft製品が好きなの?じゃあVisioも一緒に買ってよ」と無理やりVisioを押し付けられるようなものです(念のため、僕はVisioは良いソフトだと思ってます)。
もちろん「アルバムは全体として1つの芸術作品だ」という考えがあるのは分かります。しかし音楽配信サイトを通じた「曲」の売上が急速に伸びているにもかかわらず、CD/デジタルアルバムの売り上げ減少が起きているということは、消費者が「アルバム」という形で音楽を聴くことを拒否していることの現われだと思います。裏を返せば、それだけ「アルバムとして完成された作品」が少なかったということでしょう。
Amazonでも本のページ売りを始めましたし、音楽に関わらず、消費者がコンテンツに対するコントロールを強める傾向は今後も続いて行くと思います。「ある魅力的なコンテンツを核にして、適当なコンテンツを抱き合わせて販売/提供する」というビジネスモデルはますます崩れて行くことでしょう。例えば年末年始に無数に放送されるお笑い番組の中から、「笑い飯」の出演部分だけを抜き出して見る、といった行動も可能になっていくと思います。その時にどうやってビジネスを成り立たせるのか、「Web 2.0時代を生き抜く」とはそういった点を考えることだと思います。
余談ですが、PrinceのLovesexyのCDは、一枚で一曲になっていましたね。
そういえば、CrystalBallとかThe Hitsみたいなベスト版的アルバム以外は、アルバム全体で一つの作品という感じがします。
すみません、マニアックなコメントで(笑
投稿情報: 丹野 | 2005/12/28 11:42
いやいや、僕もマニアックな投稿してるので、マニアックなコメント歓迎です(笑)
いちおう一般の方々のために紹介しておくと:
Lovesexy
http://www.google.com/musicl?lid=U2uFmAwwILN&aid=G_oh_oLQEEJ
Crystal Ball
http://www.google.com/musicl?lid=e4FcFEI-qoO&aid=G_oh_oLQEEJ
The Hits
http://www.google.com/musicl?lid=LAOhHxx2WHL&aid=G_oh_oLQEEJ
こんな感じ。Priceの作品であれば、僕は全てアルバム買いします(笑)なので彼は例外。
誰とは言いませんが、「これってアルバム作りたいから書いた曲じゃないの?」って曲をいっぱい詰め込んだアルバム、何度間違って買ってしまったことか・・・
投稿情報: アキヒト | 2005/12/28 11:57
i-Pod shuffle はこのように曲単位での流通を想定した商品だったのでしょうね。楽曲の場合、1曲あたりの容量はせいぜい5Mですから、P2Pのようなネットワークでなく、SNSやメールといったインフラによる流通もおこなわれているのでしょうね。不特定多数への配信ではない、ソーシャルな流通をどのようにコントロールするのかといったときに、どうしてもコピーワンスのようなエンジニアリングによる解決に走りがちですが、デジタルのデータを所有する魅力を追究していってもらいたいものです。
>例えば年末年始に無数に放送されるお笑い番組の中から、「笑い飯」の出演部分だけを抜き出して見る、といった行動も可能になっていくと思います。
#中途半端感のある(笑)MPEG7がこの辺を目指していたのではないでしょうか。http://jnetcom.jeita.or.jp/members/mmcorpus/mpeg7/
http://www.itscj.ipsj.or.jp/mpeg7/mpeg7_body_1.html
こういったコンテンツ的要素以外でも、世の中にあるDBがレコード単位で流通するような振る舞いもありえるかもしれませんね。
投稿情報: ヒロツ | 2005/12/28 14:22
MPEG7の情報、ありがとうございます。やっぱりこんなセマンティックWEB系の試み、既に始められているのですね。どのようにメタデータを付与するのが最も現実的なのか(作成時に誰かが埋め込むのか、Folksonomy風にユーザーのタグ付けに期待するのか)は議論の余地があると思いますが、将来的には本文で書いたような「動画コンテンツの中から○○という部分だけを抜き出してみる」といったニーズに答えることが可能になるのかなと思います。
あとはファイルサイズといったインフラがコンテンツ流通を規定する、という側面は確かにありますね。コンテンツ保護、という面にはあえて目をつむり、「流通のしやすさ」という面からコンテンツのあり方を考える方が、今後の環境に合うのかもしれません。
例えば--こんなやり方が通用するかどうかわかりませんが、サビの部分だけをコンパクトにまとめた1分バージョン(従ってファイル容量も小さい)を作り、フリーで流通させる→完全版や着メロ、着うた、ビデオクリップなどのダウンロードへ誘導し、そちらで稼ぐ、などといった手法が確立されていくのではないでしょうか。ちょうどテレビやラジオの音楽番組(無料でマス配信する仕組み)が、フリーのコンテンツ流通に置き換わるイメージです。
投稿情報: アキヒト | 2005/12/28 16:39