東京に住んでいたことのある、外国のグラフィック・デザイナーの方が、東京の鉄道システムを参考に新しいナビゲーション方法を提唱されています:
■ Ambient Signifiers - How I Learned to Stop Getting Lost and Love Tokyo Rail (Boxes and Allows)
Ross Howard さんという方の論文なのですが、東京に住んでいた時に、中央・総武線ユーザーだったのだとか。僕も同じく中央・総武線ユーザーだったりするのですが、僕が気にも留めなかったことに着目して考察しています(見習わなきゃ・・・)。
Ambient Signifiers とは、直訳すれば「環境による通知」。いったい何なのかというと、例として挙げられているのは「ホームの発着ベル(発着メロディ?)」。最近、オリジナルな発着ベルを流す駅が増えましたよね。記事中で"Miyama"と誤記されている舞浜駅の「イッツ・ア・スモール・ワールド」や、蒲田駅の「鎌田行進曲」などは分かりやすい例でしょう。他にも、その駅独自のメロディを流すところがあちこちにあります。
で、Ross Howard さんはこの「駅ごとにメロディが違う」という仕組みが、「通勤で寝過ごしたり、読書に熱中して乗り過ごすことがある→馴染みのない発着ベルを耳にする→乗り過ごしたと気づく」という効果をもたらしているのではないかと主張しています。確かにそう言われると、近所でも会社と逆方向の駅に降りると、なんとなく違和感を感じます。一駅しか違わないので、景色の違いによる違和感は少ないはずですが、もしかしたらこの「耳慣れないメロディ」がそうさせているのかもしれません。
この「なんとなく・・・」というのが実は Ambient Signifiers のポイントで、「テキストによる通知は、『情報を得よう』と意識しないとアタマの中に入っていかない→『環境による通知』であれば、ユーザーにルールや仕組みを理解してもらわなくても情報を伝えることができる」と主張されています。
もう1つ、Ambient Signifiers をWEBサイトに応用した例として、イギリスBBCのサイトで採用された手法"digital patina"が挙げられているのですが、こちらの方が効果を理解しやすいかもしれませんね。patina とはモノを使い込むことによって生まれる表面のツヤとか、経験によって生まれる風格などといった意味で、それをデジタルで再現しようというアイデア。BBCのサイトではこれを「頻繁に見るセクションの背景が次第に濃くなっていく」という仕組みで実現しています。ちょうどよく読む本に手垢が付いていく・・・というイメージですね。
このようにダイレクトなメッセージによって伝えるのではなく、環境上の変化によってユーザーにアラートや「気づき」などを与えるのが Ambient Signifiers というわけです。もちろんこれだけであらゆるメッセージが伝えられる訳ではありませんし、そもそもその場所・サイトに始めて来た「一見さん」には不親切な手法でしょう。しかし他のナビゲーションと組み合わせて使う場合や、「常連さん」に便宜を図るという面では、効果があるものだと思います。
確かに慣れているモノや場所って、テキストによるメッセージってほとんど無視しますよね。例えば駅のホームまで来て電車の運休を知り、怒って改札までくると、そこにでかでかと「○○線運休中」と表示されていた -- というような経験をされたことがある方は少なくないと思います。そんな時、運休をしているホームがある場合には自動改札が赤く光る・・・みたいな告知の仕組みがあれば、「何か起きているんだな」と気づくかせることができるでしょう。その意味で、ダイレクトなナビゲーション手法と組み合わせるのが"Ambient Signifiers"の最も良い使い方なのかなと思います。
しかしなんで毎日中央・総武線を使ってるのに、同じ発想を思いつかなかったんだろ。日頃から問題意識を持たねば。
<補足>
時間が無かったのでザッと書いてしまったのですが、Ambient Signifiers がただの「色・音による区別」と違うのは、「日常/非日常」を作り出すところだと思います。それだけにどのように設計・コントロールするかが難しいところですが・・・。
音というか音楽って、記憶に対するタグになっていますよね。発想としてとても面白いです。
ちなみに、僕はこのCD持ってます(笑)
http://www.teichiku.co.jp/JReast/cd25500.html
色もいろいろな想起情報を支配しているとは思いますが、視点ってコントロールしにくかなーと。逆に音って究極のプッシュメディアになりえますね。
投稿情報: p-article | 2006/09/28 11:05