まさかプリンスからビジネスを学ぶ日が来るとは。昨日の New York Times にこんな記事が出ていました:
■ The Once and Future Prince (New York Times)
プリンスとはもちろん Prince のこと。所属レーベルと対立したり、名前を変なマークに変えてみたり(その背景にあるのも契約問題なのですが)と以前から様々な話題を提供していましたが、最近「最新アルバムを無料配布する」という発表を行って世間を驚かせました。で、New York Times の記事は、その件も含めたプリンスの最近の活動についてのコメント。
As recording companies bemoan a crumbling market, Prince is demonstrating that charisma and the willingness to go out and perform are still bankable. He doesn’t have to go multiplatinum — he’s multiplatform.
(レコード会社が市場の縮小を嘆く一方で、プリンスはカリスマ性と行動力が金を生むことを示している。彼はマルチプラチナを生む必要はない -- 彼の行動がマルチプラットフォームだからだ。)Prince’s priorities are obvious. The main one is getting his music to an audience, whether it’s purchased or not.
(プリンスのプライオリティは明白だ。最優先されているのは、自分の音楽をオーディエンスに届けるということ。それにお金が払われているのであろうとなかろうと。)
という文章が示しているように、プリンスは既に「CDを売って儲ける」というアーティストではなくなっています。例えばこんな感じ:
- ラスベガスにあるクラブを買収し、観客900名収容のコンサートを週2回開催(料金は$125)
- ハリウッドの高級ホテルでの特別イベント、料金はカップルで$3,121
- East Hampton での特別イベント、料金は1人あたり$3,000
- Verizon のキャンペーンとして、特定の携帯電話への楽曲フリーダウンロード
- 香水"3121"の発売
- ロンドンでのCD付きコンサート、料金は1人あたり£31.21(約$64)
- 自身のWEBサイトでの楽曲ストリーミング/ダウンロード
そして上記のCD無料配布、と。様々なチャンネル、また様々な料金体系(超高級コンサートから無料配布まで)を駆使し、「自分の音楽をオーディエンスに届ける」を実現しているわけです。
こうした「マルチプラットフォーム戦略」により、プリンスはアルバムの売り上げに依存しなくてもよくなっているようだ、と New York Times は推察しています。確かに以前からレコード会社と対立し、彼らに行動を支配されることを「奴隷制度」になぞらえていたプリンスですから、「アルバムを売る」というビジネスモデルからの脱却を常に模索していたのでしょう。それに成功し、自分の好きなように音楽を発表できるようになっているとすれば、ファンとして嬉しい限りです(今回のCD無料配布「事件」でも、Sony BMG とCD小売店を怒らせてしまっていますが、プリンス側は一向に気にしていないようですし)。
Where the Internet truism is that information wants to be free, Prince’s corollary is that music wants to be heard.
(「情報はフリーであることを求める」というインターネットの摂理からプリンスが導き出したのは、「音楽は聴かれることを求める」という論理だ。)
そうは考えても、多くの人々に音楽を聴いてもらうためには大手レーベルの意向を無視できない、というのが現状でしょう。プリンスはマルチプラットフォームを徹底することにより、特定の勢力=レコード会社の支配を廃し、自身の手にコントロールを取り戻したわけです。
最近はコンテンツを無料で配信する(広告収入等に依存する)ことが大きな潮流となっているような感じですが、そのモデルだけに依存してしまうと、結局コンテンツをコントロールする力はアーティスト(製作者)からは失われてしまうのではないでしょうか。狙うべくは有料モデルでもなく、無料モデルでもなく、あらゆる機会を利用して消費者の手にコンテンツを届けることかもしれませんね。
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