もうすぐ第二版が発表されるからか、最近ふたたび書店で平積みされているのを目にする『影響力の武器』。その第3章「コミットメントと一貫性」は、こんな事例から始まります:
二人のカナダの心理学者が、競馬場にいる人々について興味ある事実を見いだしました。馬券を買った直後では、買う直前より、自分が賭けた馬の勝つ可能性を高く見積もるようになっていたのです。もちろん、その馬が勝つ可能性は現実には全く変わっていません ― 同じ競馬場だし、同じコースだし、同じ馬です。しかし、ひとたび馬券を買ってしまうと、馬券を買った人の心の中では勝つ見込みが明らかに高まっていました。(中略)もっと簡単に言えば、自分が既にしたことと一貫していたい(そして、一貫していると見てもらいたい)という、ほとんど強迫的ともいえる欲求によるものなのです。ひとたび決定を下したり、ある立場を取ると、そのコミットメントと一貫した行動を取るように、個人的にも対人的にも圧力がかかります。そのような圧力によって、私たちは前の決定を正当化するように行動するのです。
誰の目にも失敗が明らかなプロジェクトや企画、アイデアなどに固執する人がいるのは、この心理によって説明ができます。自分で「これが正しい決定だ」と決めてしまうと、その選択肢がますます正しいものに思えたり、否定的な情報を排除してしまうわけですね。最近は政治家の中に、この「コミットメントのワナ」に陥っている人が見受けられますが……。
しかし何かを決断しなければ、何も始めることはできません。決断を下した上で、それに固執することを防ぐ方法はないのでしょうか?
様々な解決策が考えられると思いますが、その1つとなるのが「プランB」です。プランBとは、計画が実行される前にあらかじめ決めておく代替案のこと。よく映画(特にハリウッド超大作のアクション映画)の中で、ピンチに陥った主人公が「大丈夫、プランBがある!」と言ったり「プランBを用意してないのか?」と言われたりしてますよね。それはともかく、「こういう兆候が現れたら、こんな対策を取る」といったフォローアップや、「こんな状況になったら、こういう手段で退却する」といったイグジット・ストラテジーを決めておくのが、この場合の「プランB」となります。
プランBは他人から強要されるものではなく、また突然思いついて実行するものでもありません。あくまでも「自分で決めたこと」の一部なので、コミットメントや一貫性に反していないわけです。むしろ計画を変更すること・終わらせることが「計画通り」とも言えるわけで、逆に「あの人は用意周到だ」と思わせる効果(もしくは、他人がそう思ってくれるだろうと自分に信じ込ませる効果)もあるでしょう。少なくとも、たった1つのプランに固執して失敗への道を突き進む……という確率を大幅に減少させることができます。
まぁ本当は、いつでも計画を柔軟に見直すという姿勢と、自分の判断ミスを認めるいさぎよさを持つことが、「コミットメントのワナ」を防ぐ根本的な解決策なわけですが。しかし『影響力の武器』で紹介されているように、自分の決めた決断が正しいと信じたくなってしまう、というのが普通の人間の姿でしょう。ならば「いやぁ、失敗することも計算に入れてあったから、別の道があるんだよ」と言えるようにしておくことが、精神力に頼るよりも効果的ではないでしょうか。
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