『俺たちのガンダム・ビジネス』を読了。書店で平積みされているのを見て、一も二もなく購入してしまいました。内容は「ガンダムもの」としてはちょっと珍しく?バンダイ模型でガンダムのプラモデル(以下「ガンプラ」)の開発担当をされていた松本悟氏と、バンダイの営業としてライセンス取得に奔走された仲吉昭治さんの回想による「ガンダム・ビジネス」について。従って『俺たちのガンプラ・ビジネス』とでも呼んだ方が正確かもしれません。
ガンプラの登場過程については、僕はてっきり「テレビ番組としての『機動戦士ガンダム』の人気が出て、それに乗っかる形でガンプラが人気を集めた」という構図だったのかと思っていました。しかし、それはほとんど逆。ガンダムの商品化ライセンスは当初別の玩具メーカー(クローバー)が持っていて、バンダイがライセンスを手にできたのは粘り強い交渉があったため。さらにガンプラ開発がスタートしたのは『ガンダム』の最初のTV放映が打ち切りになった後で、最初の商品が世に出たのがそれから半年後ですから、ガンダムが再放送/映画化されるまで人気をつないだのが「ガンプラ」だという認識ができるでしょう。その意味で、最初は非常にリスキーなビジネス(打ち切りになったキャラを、半年後に商品化!?)だったわけですね。
そこからご存知の通りの大ヒット、大ロングラン商品となっていく過程については本書を読んでいただくとして、僕が最も関心を引かれたのは「ユーザーの意見を聞いて商品を改善する」という姿勢でした:
ガンプラファンの間で語られ、広がっていったガンプラに対する評価に、「ガンプラは進化モデル」という言葉がある。その意味するところは、新製品が発売されるたびに、ガンプラ商品が改善されて、確実に良くなっていくという意味である。
いささか手前味噌な感もありますが、「進化」の秘訣はこのように解説されています:
1/144スケールモデルのガンダムのビームサーベルははじめ、背中のランドセルに差した状態で完成させると、手に持てない。それに対してファンからは「ビームサーベルを手に持たせたい」という要望が届いた。
私はこのファンの声に素早く対応するよう指示した。ファンの投書から生まれたガンプラである、だからファンの要望にはできるだけ早く応えたいと思った。3回目の追加生産の際に、ランナーの外にビームサーベルが追加で掘られた。その対応の早さに、ファンからの熱い驚きと感嘆の声がバンダイ模型に届くのだった。
さらに「ユーザーの声を聞く」という姿勢にはこんな派生形も:
足首の関節が曲がらない設計だった「シャア専用ザク」だが、社内的には大きな問題になっていなかった。
しかし、発売約一年後、ガンプラをネタにしたコミック『プラモ狂四郎』の中で、足首の関節が曲がらない点がネタにされて大きな話題になった。(中略)
『プラモ狂四郎』はガンプラブームとあいまってたちまち人気コミックとなっていく。設計の弱点をコミックのなかで指摘されるというこの一件は、私のやる気に火をつけた。改めてファンの期待値の高さを痛感させられた私は、さらなる進化を目指したのである。
本書にはこの『プラモ狂四郎』のワンシーンがそのまま転載されているのですが、ちょうどそのシーンのことを覚えていたので、思わず「懐かしい~!」とうなってしまいました。いったいどんなネタだったのかは、本書を手にとっていただくまでのお楽しみとして、この件も一因となりガンプラの関節ギミックはさらなる進化を見せます。
ユーザーの声、そしてマンガのネタにまで注意を払い、自らが手がける商品を発展させていくという姿勢は、最近の「永遠のベータ」という掛け声にも通じるのかもしれないなぁと感じました。そういえば熱心なモデラーの意見を聞くという姿勢も、最近話題となった「リードユーザー・イノベーション」に通じるものがあるかもしれません(実際、関節ギミックの改善については、ファンからの声やアイデアも活かされたそうです)。しかも当時のバンダイ模型は「町工場」といった規模・雰囲気だったそうですから、意外といまのベンチャー企業に近い存在だったのかもしれませんね。
そんな「何かビジネスの参考になるヒントを」という意識で読まなくても、かつてガンプラに夢中になった人なら、「当時は裏側でこんな苦労があったんだなぁ」と感心されると思いますよ。懐かしのガンプラのカラー写真もありますので、読書の秋にぜひどうぞ。
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