いわゆる WEB2.0 的手法の登場により、人々は意図せずにコミュニケーションするようになってきている――それを「投票箱コミュニケーション(ballot box communication)」と名付けた方がいるそうです:
■ Web Sites Influence Users, Even When They Don't Communicate Directly (ScienceDaily)
イリノイ大学の Mu Xia 教授による主張。例えばあるサイトの中にある「アクセス数でソートする」などの機能、あるいはソーシャルブックマークやソーシャルニュースなどといった外部のサービスにより、ニュースや映像などのコンテンツに対して他人がどう感じたか・どんな評価を下したかを間接的に知ることができるようになっていますよね。時には記事を読む前に、その記事について何が書かれているか・読む価値があるのかを知ることができたり(個人的な経験で言うと、「面白そうな英文記事だけど読むのがかったるいなー」という際に、はてブのコメントを先に読んでしまう場合があったりします)。そうした間接的なコミュニケーションを、人々が票を投じることになぞらえて「投票箱コミュニケーション」と呼んだわけです。
名前があろうがなかろうが、こうした形のコミュニケーションは、既に私たちになじみ深いものになっていると思います(特にこのブログを読んでいただいている方々については)。最近は個人ブログでも「人気記事ランキング」などのようなコーナーを設置しているところがありますし、新聞社系のサイトですらアクセスランキングがあったりします。またシロクマ日報でも書いたのですが、米 Forrester Research の調査によると、人々がウェブサイトに求める機能/コンテンツの第1位は「ユーザーによる評価/レビュー」だったそうです:
■ 知りたいのは、他人の評価 (シロクマ日報)
良くも悪くも、「投票箱コミュニケーション」が可能ならばそれを行いたい、という人が増えているのでしょう。しかし Xia 教授はこんな問題があると指摘しています:
Xia says the findings signal that users are swayed by the tastes of other users, whose online offerings create a sense of curiosity.
“If people see there’s a lot of it out there, they sense it must be popular and it makes them more apt to check it out. They want to see what all of the fuss is about,” he said.
この調査結果は、「人々は他のネットユーザーがオンライン上に書き残したものに興味を持ち、彼らの趣味志向に影響される危険性がある」という警告なのだとXia 教授は述べた。
「(アクセスや評価などが)たくさんあれば、人々はそれが人気があるのだと感じ、チェックしなければと思うだろう。この騒ぎはいったい何だろう、と見てみたくなってしまうのだ。」
WEB2.0 が到来する以前にも、例えば「行列ができていると、思わず先に何があるか確認してしまう」といった形で、同様のことは存在していました。しかし「投票箱コミュニケーション」が異なるのは、行列に並んでいる人々の意見までもが(彼らは決してあなたに向かって語りかけているわけではないのに)分かってしまう点。よく「アンカー効果」という心理学用語が紹介されますが、先に他人の評価を聞いてしまうと、「そう言われてみればおいしいかも」と感じてしまうでしょう。同じように、ある記事を読む前にはてブ上で「これはひどい」タグがいくつも付けられているのを見てしまうと、「ここに書かれていることは誤りなんだな」というかもしれません(もしかしたら、複数のアカウントを用意して、攻撃相手のブログに「これはひどい」タグやネガコメを付けまくるといった中傷攻撃が可能かも)。
そう考えると、投票箱コミュニケーションの時代には、バイアスを払って自分の意見を探すということが重要になってくるのでしょうね。もちろん他人の意見も重要ですが、いまの時代は過去に例がないほど「みんなの意見」を簡単に、かつ大量に知ることができるようになっているのだということを理解しておく必要があるかもしれません。
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