昨日は大岡山の東京工業大学で開催された、「第1回SBM研究会」に参加してきました。当日テキストでライブ中継をされていた方がいらっしゃいますので、詳しい内容はそちらが参考になります:
ソーシャルブックマーク(以下SBM)とは何か、どのような歴史があり、今後どのように発展する可能性があるのか、を考えるイベント。講師の方々に関係者・研究者が多いのは当然として、参加者の中にもSBMサービスを提供している企業の方々や、アルファブックマーカーな方々の姿があり、文字通り熱い勉強会だったと思います(会場は冷房効き過ぎで寒かったのですが)。
朝10時から夕方5時40分まで、という長丁場のイベントでしたので、以下思いついたことをランダムに書き記しておこうと思います。
【ちょっと物足りなかった】
いきなりで恐縮ですが、非常に興味深い内容が盛りだくさんだったものの、若干技術面に偏りがちだったかなと。UIをどう進化させるか、蓄積されたデータ/メタデータをどう再利用するかといった側面の話が中心で、利用者の行動や心理といったものに対する考察が物足りない感じを受けました。例えば「P2P技術を活用し、匿名性を保ったままでブックマーク共有を実現する」というテーマの中で、「一般的な人々は自分の『お気に入り』を晒したいとは思わないはず」という指摘があったのですが、それについて客観的な考察は行われず。確かにSBMという形で自分の行動を晒すモチベーションって何だろう?と改めて考えさせられただけに、そこも掘り下げて欲しかったなぁと感じた次第です。個人的な希望で恐縮ですが……。
【タグではフォークソノミーを実現できない?】
ずっと以前にこのタイトルでエントリを書いたことがあるのですが、その時に何となくモヤモヤと考えていたことを、東京工業大学大学院理工学研究科の宮田高道さん・佐々木祥さんによるセッション「SBMデータを用いたwebコンテンツ推薦」で解決してもらえました。
前エントリの中で、僕は
ソーシャルブックマークを利用する目的は、言うまでもなく「後から読み返したい・利用したいと思ったWEB上のコンテンツを記録しておくため」です。タグは記録しておいたコンテンツを検索しやすくするために、インデックスとして付与されます。
と書き、「どういう命名ルールならコンテンツを再利用しやすくなるか」は人によって千差万別なはず(さらに他人の便宜を考えてタグ付けする義務やインセンティブはない)だから、SBMのタグでフォークソノミーを実現するのは難しいのではないか、と考えました。
それから2年が経過しましたが、意見は変わっていません。まずSBMは「後で再利用したいWEBコンテンツを記録/共有するため」だけに使われるのではなくなっていますよね。以前より「ソーシャル」という魅力がずっと強くなり、あるコンテンツに対して何か一言言う(コメント機能としてのSBM)、「これはすごい」「これはひどい」を明示する(投票機能としてのSBM)、といった使われ方が有力になってきています。であれば、タグの命名ルールはさらに細分化されているはずで、「タグではフォークソノミーは実現できない」状況はさらに悪化しているでしょう。
実際、セッションの中で"The Structure of Collaborative Tagging System"という論文が紹介されていたのですが、del.icio.us の中で使われているタグには以下の7つの機能が存在していたそうです:
- アイテムが何に関するものか (ex. cat, Microsoft, Steve Jobs)
- アイテム自身が何であるか (ex. article, book, blog)
- アイテムの品質や性質を示したもの (ex. funny, stupid, これはひどい)
- タスク管理 (ex. toread, jobsearch, あとで読む)
- アイテムを誰が持っているか
- カテゴリーの精緻化(単体では使われないタグ)
- セルフリファレンス(myで始まるタグ) (ex. mystuff, mycomment)
確かに日本のSBMサービスを見ていても、これに類似する使い方はよく目にします。従って現在において、SBMにおけるタグを収束して集合知的なものを生み出すというのは、非常に困難な作業となるでしょう(もちろん50%ぐらいの精度ならフォークソノミー的なものを作ることは可能で、その程度の精度で十分だと考える人は多いと思いますが)。
ってことで「タグって使えないよねー」で終わっているわけでは当然なくて、様々な研究者が様々なアプローチを使って「SBMをどう情報発見に役立てるか?」が検討されているとのこと。で、セッションでは宮田さん・佐々木さんご自身の手法として「Anti-Folksonomy アプローチ」なるものが紹介されていました。これは、
タグに使われているwordなんて飾りであり、Tagの役割はitemのグルーピングだけ
という逆転の発想に基づくもので、「タグ名称を用いない情報推薦」を行うことを目指しています(それでアンチ・フォークソノミーなわけですね)。
具体的な内容は、セッションで使用された資料(こちらでダウンロードできます)をご確認下さい、で逃げたいところですが……一応僕が理解できた内容をまとめておくと:
- タグに何が書かれているかは見ず、タグによって作られた「グルーピング」の方に注目する。
- タグで作られたグルーピングを「コンテンツクラスタ」と名付け、異なるユーザー間でコンテンツクラスタ同士がどの程度重なり合っているかを見る。
- 重なり合いが強い場合、推薦元コンテンツクラスタの中からWEBコンテンツを推薦する。
という発想。例えば僕が「これは欲しい」というタグを付けたコンテンツ群と、他の誰かが「おいしいお菓子」というタグを付けたコンテンツ群の重なりが強かった場合、「おいしいお菓子」を推薦元コンテンツクラスタとすれば、この中から適当なコンテンツが僕に対して推薦されるわけです(もちろん話はこんな単純じゃなくて、様々な数式を駆使して算出されるわけですが)。
この発想、すぐに実用化できるという話ではないと思いますが、「タグ名称は飾りにすぎない」という点に同感です。言語解析だとかセマンティック云々といったアプローチよりもシンプルにできる可能性もあると思いますし、今後の発展を期待したいアイデアだと感じました。
【偏りこそSBMの価値】
おぉ、なんか Anti-Folksonomy に時間を割いてしまった。最後に「今後SBMってどうなるの?」という話で感じたことを。
これからSBMをもっとメジャーにするには?という問いに対して、「専門的なSBMを立ち上げて、徐々に一般化すべき」「誰もが使えるような、一般的なSBMをつくるべき」などといった意見が出ていましたが、個人的にはそもそも「(万人が参加しているという意味での)メジャーなSBM」というもの自体があり得ないのではないかと思います。前述のように、現在においてSBMの価値の多くは「BM(ブックマーク)」の部分にあるのではなく、「S(ソーシャル)」の部分にあります。であれば、あまり参加者を増やすことを考えてしまうと、最大公約数的を追うことになってしまうのではないでしょうか。最初のセッションのQAタイム、学びingの横田真俊さんが
誰もが興味のあるテーマを拾っていると、それは新聞になってしまう
というような意味の発言をされていたのですが、まさにその通りだと思います。実際、SBMやソーシャルニュースサイトの運営者の方に話を伺うと、「参加者が増えると芸スポ系のネタがトップに上がってしまう」という悩みがあると聞きます。それは当然の話で、80歳のおばあちゃんと小学生の男の子、両者が共に興味を持つコンテンツはお笑いやオリンピック程度でしょう。
従って、盛り上がるSBMを作るにはあえて「偏り」を残しておくべきではないでしょうか。プラットフォームは1つで良いと思いますが、テクノロジー系が好きな人はテクノロジー系のネタが集まるページに。芸スポネタは芸スポページに。たまに他分野の話題の記事を見たくなったら、ページを横断していけば済む話です。って、もう既に様々なサービスで取り組まれてることですが。
そうなると、本当にSBMをブログ並みにメジャーな存在にしたいのなら、Mixi にSBM機能を導入してもらうのが一番かもしれません。ブックマークレットをクリックすると、「このページをどこにクリップしますか?」的なメッセージが表示され、「マイページ」もしくは「自分が所属しているコミュニティ(群)」が選べると。で、「自分が所属しているコミュニティ」を選んだ場合には、そのコミュニティの中だけで共有が行われます(実はこれ、既に FriendFeed の Room 機能で実現されています)。これなら手間はかかりますが、コミュニティという偏りと価値を維持したままで、SBMユーザーを飛躍的に増やすことが可能でしょう。
しかしそんな苦労をしなくても、アメーバあたりが「アメーバブックマーク(略してアメブ)」を始めれば一気にメジャーになりそうな気もしますが。で、エビちゃん辺りに使ってもらって(もしくはゴーストブックマーカーを雇って)「エビちゃんの注目アイテムがチェックできる!ゆるふわ愛されブックマーク!」的に売り出すと。宣伝効果抜群だろうし、始めてもおかしくない気がするんだけどなー。
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などなど勝手な感想を書いてしまいましたが、満足度の高い勉強会でした。次回は京都!?という話も出ていますが、とにかく第2回目も開催される方向だそうですので、興味のある方は注目してみて下さい。
それから、今回の研究会のレポートは「SBM研究会」というタグでブクマすることがルールになっています。ので以下のリンクを見ていただければ、参加者のレポートが一覧できるはず:
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