今日のシロクマ日報で紹介した、日本動物行動学会 Newsletter No.43 の記事「お利口ばっかりでも,たわけばっかりでもダメよね!~『集団』行動の最適化~」がなかなか面白いです。タイトルといい、文中に登場する「お利口個体」「バカ個体」という言葉といい、科学者らしからぬワーディングが素敵。特に興味を引かれたのが、西森拓さんの「アリをモデルにしたシミュレーション模型」という部分ですが、短いので該当部分を全て抜き出しておきたいと思います:
第二演者の西森拓(大阪府大院・工・数理工学)は,アリをモデルにしたシミュレーション模型により,ランダムに餌が出現する2ヶ所の餌場での採餌行動において,個体のフェロモン追従効率の個体差がどのような頻度で存在するのが効率的なのかについて検討した研究を紹介した。興味深いことに,フェロモン追従効率において,フェロモン濃度に正確に反応する「お利口個体」のみでは時間あたりの餌持ち帰り量は最大化せず,フェロモン濃度を正確に追跡できない「バカ個体」が一定割合存在する時に採餌効率が改善されることが示された。さらに興味深いことに,フェロモン濃度に対しある程度ミスをする,ややバカな個体よりも,まったく追跡できない大バカな個体の方が,効率改善により貢献していた。力学的な解釈としては,「大バカ個体」は新たな餌場の探索者として機能している,あるいは回り道をショートカットする効果などが考えられるが,いずれにせよ,システム稼働時に短絡的に考えたときの最適な行動から見て,非効率的に見える行動が混在する方が全体の効率が上がる場合があることが示された。
アリとフェロモンの関係については、こちらの記事が参考になります。簡単に言えば、「他の個体が(エサ場への)道しるべとしてつけておいたフェロモンを追跡する能力が高い個体と低い個体、両方がいた方が集団全体としてのエサ採集量が多くなる」ということですね。特に面白いのは「ややバカな個体よりも、まったく追跡できない大バカな個体の方が、効率改善により貢献していた」という部分。「ちょっとおバカ」程度よりも、凄くバカの方が存在意義がある……俄には信じがたいですが、シミュレーションするとそういう結果になるのだそうです。
この記事を読んだ時、なんとなく「エサ=集団にとって価値のある情報」「フェロモン追跡能力=情報探索能力」という風に連想しました。ある組織が情報を探す際、もちろん「情報探索能力」が高い人物が揃っていた方がいいんだけれど、一人か二人くらいはトンチンカンな探索方法をする人物が含まれていた方が良い――アリでのシミュレーション結果を、そんな風に応用して考えることはできるでしょうか?例えばソーシャルブックマークサービスにおいて、「この人は情報を見つけるのが上手いなぁ」というようなお利口ブックマーカーをフォローするだけでなく、「この人はなんでこの記事に [これはすごい] タグを付けるんだ!」と思うようなブックマーカーもフォローした方が希少情報発見率は上がるのでしょうか。
ここで考えさせられるのが、前述の「ややバカよりも大バカがいた方が効率が増す」という部分。情報探索に当てはめて言えば、経営に役立つ知識を得ようと皆が『ハーバード・ビジネス・レビュー』を読んでいるのに、一人だけ『SPA!』を買ってくる奴といったところでしょうか(『アソシエ』買ってくる奴がややバカぐらいで)。確かに『ハーバード・ビジネス・レビュー』にしか経営で使える知識が無いのであれば、全員で同雑誌を精査するのが良いでしょう。しかし実際にはそんなことはないですし(『SPA!』に使えるビジネス知識が載っているかどうかはひとまず置いといて)、『ハーバード・ビジネス・レビュー』が経営知識の宝庫であればライバルもそこから知識を得ているはず。そんな時『SPA!』を買ってくる奴がいて、そこから偶然にも経営知識が得られたとしたら、敵に知られていない新たなエサ場(情報源)が見つかったことになります。主流派とまったく反対方向のベクトルで考える存在というのは、意外と重要なのではないでしょうか。
そう考えると、前掲の記事で使われていた「お利口個体」「バカ個体」という言葉使いは改めておいた方が良いかもしれません。むしろ「似たもの個体」「変わりもの個体」とでもした方が、イメージを正しく伝え、「バカを組織に入れる必要はない!」などという反応が出るのを防げる気がします。
ということで、「大バカブックマーカー」もとい「変わりものブックマーカー」を含んでいる会社の方が、社内ソーシャルブックマークサービスは成功しやすい……なんて研究を誰かやってくれないかなぁ。ただそんな研究をしなくても、ダイバーシティ・マネージメントに成功している会社の方が成功している、という証明ができさえすれば良いのかもしれませんが。
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