最新作『クラウド化する世界 』がようやく日本でも出版されたニコラス・カー氏ですが、以前彼の書いた「『グーグル化』でヒトはバカになる」という記事が『COURRiER Japon (クーリエ ジャポン)』2008年9月号 に出ていました(シロクマ日報での紹介記事)。そこで彼が述べていたことを簡単にまとめると:
かつては知識を得るのに時間をかけ、手にした情報はじっくり精査するものだった。しかしネットの世界では、Google でちょっと検索をし、リンクをクリックするだけで瞬時に膨大な情報が手に入る。次から次へと情報が飛び込んでくる中で、集中力はそがれ、断片的な情報のみを集めるようになる。そんな新しいスタイルに私の脳は適応しようとしているが、それによって何かを時間をかけて考える力が失われてしまうようだ――
こんなことを言っていたのですが、どうもこれは彼の主観だけではなく、科学的にも証明可能な現象のようです:
■ Is surfing the Internet altering your brain? (Reuters)
Gary Small, a neuroscientist at UCLA in California who specializes in brain function, has found through studies that Internet searching and text messaging has made brains more adept at filtering information and making snap decisions.
脳の機能について研究している、UCLA カリフォルニア校の神経科学者 Gary Small は研究の結果、インターネットで検索したりテキストメッセージを交換することで、脳は情報をフィルタリングしたり瞬間的な判断を下すことにより熟達するようになることを発見した。
とのこと。考えてみれば当然の話かもしれませんが、大量の情報を瞬時にさばくことを日々強いられているうちに、そういった機能が脳内で強化されていくわけですね。
冒頭のカー氏の記事は、本当にそれで良いのだろうか?と疑問を投げかける内容だったのですが、Small 氏はこんな意見だそうです:
Small, however, argues that the people who will come out on top in the next generation will be those with a mixture of technological and social skills.
"We're seeing an evolutionary change. The people in the next generation who are really going to have the edge are the ones who master the technological skills and also face-to-face skills," Small told Reuters in a telephone interview.
"They will know when the best response to an email or Instant Message is to talk rather than sit and continue to email."
しかし Small 氏は、次世代で頂点に立つ人々は、テクノロジースキルとソーシャルスキルを併せ持つ人物だと主張している。
「私たちは革命的変化を目の当たりにしているのだ。次世代において秀でる人々は、テクノロジースキルと対面スキルの両方をマスターした人物になるだろう」Small 氏はロイターとの電話インタビューでこう述べた。
「彼らはメールやインスタントメッセージに対して、座ってメールを続けるのではなく、直接話をするのが最適なのはいつなのかをわきまえている。」
ということで、むしろ新しいテクノロジーに適応した者こそ次世代のリーダーになるのでは、というような立場に立っています。果たしてインターネット脳は現代社会の崩壊につながるのでしょうか、それとも再構成につながるのでしょうか?
その良し悪しは別にして、今後も「インターネット型の情報配信」、つまり"断片的な情報が大量に手に入る"という状態は増えていくことでしょう。それに何らかの形で適応することは避けられませんから、「インターネット脳」を完全に否定することは現実的ではないと思います。考えられる対応策は、インターネットを通じて情報収集・発信すると同時に、従来型の情報収集・発信方法に慣れ親しむように努力することではないでしょうか。いくらインターネットが進化したとしても、世の中にある全ての情報がオンラインになるのはずっと先のことになるでしょうから、新・旧両方の思考法ができる人物が求められていくと思います(それが Small 氏の言う「テクノロジー/対面スキル両方に精通した人物」ということかもしれませんが)。
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