ようやく行ってきました、横浜トリエンナーレ2008。詳しい解説はWikipediaに任せてしまうとして、3年に1度、横浜を舞台にして行われる現代アートの展覧会です。メイン会場は新港ピア、横浜赤レンガ倉庫一号館、日本郵船海岸通倉庫の3ヵ所で、その他にも三溪園などいくつかの場所に作品が展示されるという大がかりなイベントです。
***** 以下、ネタバレを含みますので「新鮮な気持ちで観に行きたい」という方はご注意下さい*****
シロクマ日報でも書いた通り、NHKの番組内で紹介されたいくつかの作品が気になっていたのですが、ほぼチェックしてくることができました(流石に三溪園までを1日でまわるのはムリだったのですが)。こちらはその中の1つ、シロクマ日報でも取りあげた「17-1」:
で、個人的に今回観た中でベストだと感じたのが、脚本家・映画監督・女優とマルチな才能を発揮しているミランダ・ジュライさんの「廊下」。これは前述のNHKの番組『新日曜美術館』内でも取りあげられていて、そのせいもあってか非常に混雑していました(係員さんの説明によると、テレビで放送があってから急にこの作品を観に来る人が増えたとのこと)。なので写真を撮るのは控えたのですが、PingMag さんで写真付きの紹介がアップされていますので、雰囲気を知りたいという方はこちらをご覧下さい:
■ 現代アートの祭典、横浜トリエンナーレ2008 (PingMag)
またちょうど入り口部分の大きな写真が、ミランダ・ジュライさん自身のホームページにも掲載されています:
(パスワードを要求されますが、何を入力しても通るようになっていますw)
作品は非常に狭くて長い廊下(幅90cm、長さ30mとのこと)に、49枚のパネルが左右から交互に突き出している、というもの。入っていくと、
あなたはまず笑います。
そもそもこれが
いつのまに始まって
しまったのかも
わかりません。友だちに何か言おうと
振り返りますが、
もう背後には誰も
いなくなっています。
など、パネル書かれた謎の言葉を目にすることになり、読んでいくうちに自分の人生とオーバーラップするように感じられていきます。最初は「なんだろう」「意味不明だな」と感じていたパネル、そして廊下全体が、次第に重要な意味を持つもののように感じられていく構成は、まさに見事の一言だと感じた次第です(この辺り、脚本家としての経験が活かされているのかもしれません)。
ここからは超個人的な推測ですが、この作品を体験して「ひぐらしのなく頃に」を思い出す方が少なくないのではないでしょうか。前述の通り、この作品の「ストーリー」は少しずつ(パネル1枚ごと)に展開し、しかも分岐はありません(観客は1本道を右へ、左へと体を傾けながら前へ前へと進みます)。どちらもコンテンツの中身だけを伝えるならば、別に普通の小説の形式で発表してしまっても良いわけですが、中身の伝え方を工夫することで「参加している」「作品の世界の中にいる」という感覚を感じさせることに成功していると思います。
ところで、先ほど「分岐はない」と書きましたが、実は一ヵ所だけ「分岐」があります。その場面が絵はがきになっていたので、買ってきました(上の写真です)。実物は日本語で展示されています(実は「廊下」は英語版と日本語版が用意されていて、パネルの裏側に英語が書かれているのですが)。
この黒いパネルは他のパネルと異なり、上からつるされていて、左右どちらからでも通り抜けられるようになっています。そして書かれているのは、こんなメッセージ:
人生最大の決断です。全てはここにかかっています。この選択には、正解と間違いがあります。動物的な直感を使って、どちらかの道を選びなさい。
うーむ、なんだか仰々しいメッセージ。右と左、覚悟を決めてどちらかを選ぶと……
……
……実は何も起きません。パネルは上からつるされているだけで、左右どちらから通り抜けても同じ空間(同じ廊下)に進むことになります。そしてその後のパネルに書かれているのは
この決断が正しかったか、それとも間違っていたか、そんなこと誰にも分かりません。
というようなメッセージ。ギャグのような仕掛けなのですが、「あぁ、人生なんてそんなものかもしれないよなぁ」と感じてしまいました。
というわけで、トリエンナーレに足を運ぶ機会があったら、この「廊下」を是非訪れてみて下さい(横浜赤煉瓦倉庫1号館会場にあります)。いや、それ以外にも刺激を受ける作品が数多く展示されていますので、1日かけて観に行く価値があると思いますよ(11月30日まで開催しています)。
こちらはシルパ・グプタさんの「見ざる、言わざる、聞かざる」。写真に写っているのは一部分だけで、実際は非常に巨大な作品です。
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