弾さんの 404 Blog Not Found を読んでいたら、「アロメトリー」という言葉が出て来たので反応。中身は全然関係ないのですが(すみません)。
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『生き物たちは3/4が好き 多様な生物界を支配する単純な法則』という本を読んでいます。お手軽科学エッセイ集のようなタイトルですが、中身は硬派で、表題にある「3/4が好き」という表現は代謝率のアロメトリーに関係したもの。と、ここまでで『ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学』を連想された方は正解。同書でも紹介されていた「3/4乗則」を解説するのが中心テーマの1つとなっています。
生物が1日に必要とするエネルギーの量は、体が大きくなったとしてもそれと同じペースでは増えない――つまりネズミが1日に自分の体重分の食料を必要としているからといって、ゾウも自分の体重分の食料を必要とすることはなく、ずっと少ない量で大丈夫というのが代謝率と体重のアロメトリー。ではなぜそれが生じるのか?というのが長年にわたって研究者達を悩ませてきた問題で、本書でも大きなスペースが割かれて解説されているのですが、ちょうど Wired に本書でも取り上げられているウェスト、ブラウン、エンキストらの研究について解説した記事が掲載されています。興味のある方はこちらをどうぞ(ただ以下の記事は、彼らの説を否定する証拠が見つかったという内容ですが):
■ ゾウからバクテリアまで、「体重あたりのエネルギー消費量」は共通 (Wired)
この主張は、ニューメキシコ大学のJames Brown氏、アリゾナ大学のBrian Enquist氏、ロスアラモス国立研究所のGeoffrey West氏らが[1997年に]行なった、非常に影響力のある研究(PDF)を否定するものだ。3氏はこの研究で、動物の大きさと代謝の間に強い相関関係を見出した。それによると、小さな生物はエネルギーを効率よく消費するが、大きな生物はそうではなく、生物の体が大きくなるに従って、体の大きさに対するエネルギーの生成量は小さくなるという。
ニューメキシコ大学の生態学者チームは、この生物の大きさと代謝率の関係――アロメトリー(相対生長)式を用いたスケール則として知られる――は、体が大きくなるほど栄養素を全身に運ぶのが困難になることから生じた、生命の一般法則だと主張していた。
ごくごく簡単に言ってしまうと、生物が大きくなるにつれてエネルギーを体中に運ぶのが難しくなるので、末端(細胞)で急速にエネルギーを費やすのも難しくなる=エネルギーが供給されるペースに合わせて消費量も減少する、というのがウェストらの考え方。文中でこの作用をロジスティクスに喩える箇所があるのですが、まさに巨大な生物は広大な帝国を維持するようなものになるわけですね。
で、上記の記事は「エネルギー消費量を計ってみたら、そもそも生物の大きさには関係していなかった」と主張する人々が現れたという話のようですが、『生き物たちは~』によれば、何を基準に計るかによっても代謝量は変化するとのこと(例えば様々なほ乳類から体内の組織を取り出して比較してみると、母体となる生物のエネルギー消費速度には何倍の差がある場合でも、組織だけの場合はほとんど同じになるのだとか)。というわけで、まだまだ解明されていない謎の多いこの問題なのですが、本書では過去から現在に至るまでの様々な説が紹介されていますので、興味のある方はかなり楽しめると思います。
ちなみにこの本、原題は"In the Beat of a Heart: Life, Energy, and the Unity of Nature"(心臓の鼓動の中に:生命、エネルギー、自然界の統一)で、扱うテーマは3/4乗則にとどまりません。生物のサイズと代謝量が関係しているとして、なぜ同じサイズでも多種多様な種類が存在しているのか?などなど、1つの疑問が次々に別の疑問へと続いていくような展開。既に一昨年の話ですが、流行した『生物と無生物のあいだ 』あたりを楽しめた方にオススメ。
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