いま売れないモノ、の代名詞になってしまっている感のあるクルマ。各社あの手この手で何とか売ろうとしていますが、その中で仏ルノーが英国内で「週末いっぱいクルマを貸し出す」というサービスを始めているそうです:
■ Free car for the weekend, no strings attached (Springwise)
これはもちろんチャリティで行っているわけではなく、テストドライブの延長線上にあるサービスです。通常、どんなディーラーでもテストドライブは実施しているものですが、たいていその辺を一周して終わりですよね。しかし今回の"Renault’s extended test drive"というプログラムでは、金曜日の夜から月曜日の朝までルノーのクルマを借りることができるとのこと。ゆっくり週末にドライブでも出かけて、そのクルマを持ったらどんな生活が待っているのか、できるだけ実際に近い状態を体験して下さいということですね。
最近「泊まれるモデルハウス」(一泊することで朝起きてから寝るまでの実生活を一通り体験できるモデルハウス)などというものも登場していますが、狙いは同じでしょう。なるべくそのモノが使われる実際の環境に近づけることで、より魅力を感じやすくさせる、と。この辺の発想は、例えば「ケータイの機種変更をする前に、1日無料で借りて実生活での使い勝手が確かめられる!」なんてサービスに応用できるかもしれません(SIMカード等との絡みで実現にはいろいろとハードルがあるでしょうが)。
ただし……この試乗プログラムは単なる顧客サービスではなく、あるワナが仕掛けられています。それは「所有意識」という心理。『予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』を読まれた方なら、第7章がまるまるこの「所有意識がもたらす問題」について割かれていたのを覚えていらっしゃるのではないでしょうか。話は簡単で、人はいったん何かを手にしてしまうと、それを手放すのが嫌でたまらなくなってしまう、と。そのために、手にする前だったら下さなかったような決断(あまり欲しいと思っていなかったモノを買う、あるいは予想以上の値段で買う)まで下してしまうというわけですね。
『予想どおりに不合理』では、「~日間お試しキャンペーン」などといった所有意識に訴える様々なテクニックが紹介されていますが、何も実際に持たせなくても「仮想の所有意識」でも十分なことが指摘されています:
「仮想の所有意識」が広告業の推進力のひとつになっているのは言うまでもない。幸せそうな夫婦がBMWのコンバーチブルでカリフォルニアの海岸線を走るのを見て、そんな自分の姿を想像する。パタゴニア社のハイキング服のカタログを手にすれば、ポリエステル・フリース製のプルオーバーを見て、あっというまに自分のもののように考えはじめる。わながしかけられているところに、わたしたちは喜んで踏みこんでいく。そして、まだ何も手にしていないうちから、部分的な所有者になってしまうのだ。
今回のルノーのプログラムは、仮想を飛び越えて実際の週末まで体験できてしまうわけですが、所有意識を刺激することにも目的が置かれているのは明確でしょう。とにかく気前の良い話を受ける前には、心理面で何らかの影響を受けてしまうことがないか、念のため確認してみることが必要なのかも。
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