ついに日本国内でも感染が拡大している新型インフルエンザ。その対策として代表的なものの1つがマスク着用ですが、人々がマスクを買いあさっているために、一部で品薄となる事態まで起きているようです。ところが今朝の朝日新聞に、こんな一節がありました(5月18日朝刊第2面):
日本などアジア諸国でよく見られるマスクに対する考え方も違う。
英国のジョンソン保健相は4月27日の国会答弁で「マスクをかけて感染を防止できることを示す科学的根拠は見あたらない」と発言。CDCも「あえてはずせとまでは言わないが、科学的な根拠はない」(ベッサー所長代行)との立場だ。
んー、どうもマスクの効果については、世界的に同じ認識が持たれているわけではないようです。他の記事にもあたってみたのですが、少なくとも「正しい使い方をしなければ効果は激減してしまう」というのが共通した認識のようですね。
しかし「問題は使い方であって、しないよりはしている方がマシ」と考えていれば良いかというと、そうでもないようです。逆に間違った安心感を与えてしまうのではないか、という指摘もあるとのこと:
Masks may give people a false sense of security, said Dr. Laurene Mascola, director of acute communicable disease control for the Los Angeles County Department of Public Health.
"You would have to wear it 100% of the time that you are outside," she said of masks and respirators.
Further, face masks and respirators shouldn't replace other precautions.
ロサンゼルス郡公共衛生部門で伝染性疾病対策を統括する Laurene Mascola 博士は、マスクは人々に誤った安心感を与えかねない、と警告する。
彼女はマスクについて、「外出している間中ずっと、100%着用していなければならないものだ」と述べている。
さらにマスクや防毒用マスクをしているからといって、他の予防策を取らなくて良いということにはならない。
(Los Angeles Times, "Face masks aren't a sure bet against swine flu")
また以下は鳥インフルエンザを想定したものですが、こんな指摘もあります:
パンデミック・インフルエンザ発生の際にマスクが意義があるかどうかは不明であると米国医学研究所は発表した。
(中略)
マスクがインフルエンザに効果を持つか否かについては、十分参考になる資料はないと委員会では言っている。
この見解は極めて重要となる。なぜならば、パンデミックに関する専門家の中には、マスク着用が効果あると人々が信じたならば、多くの人々はパンデミック に際し、家庭に留まることなしに、マスクを着用して町中に出かけたり、発病者に接近する危険性があると危惧している人も多いからだ。
こういうのもモラルハザードというのでしょうか。安心感が被害の拡大を招きかねないということですね。また「仕事は休めないし、マスクをしていれば他人にうつすことはないだろ」と考えて出社してしまう、というケースもあるかもしれません。
さらに一般の知識のない人々が医療用マスクまで買い集めてしまった結果、本当にそれを必要として、正しく使うことのできる医療現場で不足が起きるのではないか、と指摘されている方もいらっしゃいます:
N95マスクの販売や感染防護服の販売で商売をされている方も多いようですが、買っても使いこなすことが出来ない一般の方々が医療用N95マスクを買い占めると、病院や診療所で医療用N95マスクの不足を来たします。
自分が感染したとき病院に行こうとしても、N95マスクが不足した医療機関は診療が行えず閉鎖してしまっていて、治療を受けることが出来ないという事態が考えられます。
高価なN95マスクを買い揃えることは止め、無駄なことにお金をかけず、ユニチャームのウィルス対応立体型マスクの周囲を布製テープで密閉して、N95マスクの代用としてください。
簡単、確実、安価です。
(WADA-Blog 「新型インフルエンザ対策「N95マスク」試着してみました」のコメント欄より)
もちろん人々が不安を感じるのは当然ですし、ちょっとでも効果が認められている策があれば、それに飛びつきたくなるのは当然です。しかしそれによって、もっと効果のある予防策(外出を控えるなど)がおざなりになったり、限られたリソースが本当それを必要とする分野・人々に届かないなどという事態があってはならないでしょう。よく言われることですが、本当に必要なのは正しい情報を手にすることを心がけ、それに基づいて行動することではないでしょうか。
幸い新型インフルエンザは、いまのところそれほど症状は重くないようです。現時点での騒動が教訓となって、今後予想される「強毒」化や、秋以降の第2次流行の際に適切な対応が行えるようになると良いのですが。
【関連記事】
これは、まぁ見方の違いというか、考え方の違いというか。。
だいたい、世間が右を向けば、かならず左だという話はでてくるし、そのたぐいの記事ですね。
ちょっと違うと思うのは、一般の人が、N95マスクなどを使いこなせないと決め付けている点。それは、使いこなせない人もいるが、そうではない人もいる。
誰もが使い方を学べば、使いこなせる。それを、ただの先入観で、無駄な買い物だと言い切るのは、「ごう慢」であります。
それに、どうゆうマスクを使い、どうゆう対策をいつ、どのくらいするというのは、個人の姿勢の問題。
一般の人が、N95マスクを買うと衣料関係者が買えなくなるというのは、マスク不足のニュースに影響されすぎ。
という事から、この記事は「誤報」である
※まぁ、このコメントは承認しないと思うが(笑)
投稿情報: あい | 2009/05/20 18:24
いえいえあいさん、コメントは全て公開していますよ。ただし、明らかなスパムや、僕以外の個人を中傷するようなものは削除していますが。
あいさんの仰る通り、この件については見解の相違という面もあると思います。ただ、「どうゆうマスクを使い、どうゆう対策をいつ、どのくらいするというのは、個人の姿勢の問題」とばかりも言っていられないのでしょうか。仮にモラルハザードが起きているとすれば、正しい予防策を知らしめて感染拡大を防ぐ責任が関係者にはあると思いますし、実際に他国の医療機関の中には「マスクに効果無し」という宣言を出しているところがあるのは本文にある通りです。マスク不足も実際に広がっているわけですし、効果があるのなら正しい使い方を伝える努力をするべきだと思うのですが、いかがでしょうか。
投稿情報: アキヒト | 2009/05/20 19:43
>誰もが使い方を学べば、使いこなせる。
それには賛成するけれど、HDDレコーダーにしろチャイルドシートにしろ、現実問題として多くの人は使い方を学ぼうともしないし、だからこそ使いこなせないことが多い。
自分の利益になる場合でさえ学習しない人々が、自分の利益にもならない「面倒な」マスクの使い方などを真剣に学ぶとは考えにくい。
人間が常に間違いを犯さず、常に完璧に計画されたとおりに行動するのであれば「使いこなせる」と結論づければいいけれど、現実にそうなっていないのだから、「使いこなせない」という前提で予防計画をたてるのは理に適っていると考えます。
投稿情報: あ | 2009/05/20 20:17
よくわからないのですが、弱毒性のうちに感染しておけば、強毒性に変異したときに免疫とならないのでしょうか?強毒性の流行に備えて、意図的に弱毒性のインフルエンザに感染するという手は考えられないのでしょうか?
投稿情報: anyong | 2009/05/20 22:02
>よくわからないのですが、弱毒性のうちに感染しておけば、強毒性に変異したときに免疫とならないのでしょうか?
予防接種の考え方ですよね。
あれって、変異してしまったら、違うものになってしまうので、免疫とはならないんじゃないかな?
僕も良くわかってないで言っていますが・・・。
投稿情報: | 2009/05/21 12:40
自分が正しくマスクをつける技術があれば、マスクは非常に有効である。
マスクをつける技術のないものが、N95マスクを正しくないやり方で着用して、不用意に人混みに出てウイルスに感染するという危険性は公衆衛生的な観点から出されたコメントにすぎない。
すでに感染してしまったものの自覚症状がなくて分からずに外出する人がマスクをつけているのはすばらしいことであるし。また感染のおそれのある密閉空間が識別できない以上、感染していない人が、やむを得ず外出する場合、マスクを携帯する必要がある。つまり、公衆衛生家のコメントは市民個人ににとっては意味のないコメントである。
投稿情報: つまり | 2009/05/21 13:15
> anyong さん
僕も専門家ではありませんが、テレビや新聞等の報道によれば、「弱毒性に対する免疫が、強毒性になったウィルスに対して効果を発揮する保証はない」そうです。やっぱり予防しておくのが一番かと。
> つまりさん
「すでに感染してしまったものの自覚症状がなくて分からずに外出する人がマスクをつけている」という点ですが、山梨県の対策会議でこんな考え方が表明されています:
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/yamanashi/news/20090521-OYT8T01127.htm
”「むやみにマスクを買わないよう県民に呼びかけるべき」。21日開かれた県の新型インフルエンザ対策の担当者らによる臨時会議で、出席した有識者からこんな意見が出た。
口火を切ったのは古屋好美・県保健所長会長。県内でもマスクの品薄状態が続いており、「せきが出る人や人込みに行く人など、本当にマスクが必要な人に行き渡らず、かえって感染が拡大する恐れがある」と指摘した。医師ら他の有識者からも賛同する意見が相次いだ。”
「感染しているかどうか分からないけど、とにかくマスクしてれば」という考え方は、結局本当に必要としている人からマスクを奪う結果につながってしまうと思います。もちろんマスクが無尽蔵にあれば良いのですが、現状では不足しているという事実から考えるべきではないでしょうか。
投稿情報: アキヒト | 2009/05/22 10:27
「むやみに買わない。買い占めをしない。」
ということとマスクの予防効果とは全く関係が無いことですよね。
マスクの予防効果はSARSの時のデータから、マスクをしない人に比べて3分の1くらいに減少することが分かっています。
そのことを言わずに、遠回しに買い占めを批判するつもりで言っているのなら、論拠に基づかない妄言です。
買い占めは買い占めで批判すれば良いことだし、小売りで数量制限をすればいいことです。
投稿情報: つまり | 2009/05/22 23:40
つまりさん、コメントありがとうございます。
> 「むやみに買わない。買い占めをしない。」
> ということとマスクの予防効果とは全く関係が無いことですよね。
ちょっと論点がズレてきたので整理しますね。本文を読み返していただければ分かると思いますが、僕が言いたかったのは「とにかくしないよりする方がマシ」という意識が広がりすぎて、逆に感染が広がってしまう(モラルハザードを招く、もしくはリソースが偏在してしまうことによって)危険があるのではないか?ということです。「マスクの予防効果はどんなものか」「一般人が買い占めに走っても大丈夫なのか」という要素はこの意見に関係してくるために挙げているのであり、両者の間に直接的な関係があるかどうかはここでは問題ではありません。
> マスクの予防効果はSARSの時のデータから、マスクをしない人に比べて3分の1くらいに減少することが分かっています。
うーん、すみません。僕はSARSの場合ではなく、「今回のインフルエンザに対してはマスクは効果が認められないと海外の医療機関が宣言している」というニュースを論拠に本文を書いたので、「SARSで効いたことを隠していた」わけではありませんよ。もちろん今後はつまりさんの情報も加味して議論を進めたいと思いますが、決して妄言をするつもりはないことをご理解下さい。
> 買い占めは買い占めで批判すれば良いことだし、小売りで数量制限をすればいいことです。
この点には賛成です。実際、高値で転売する人々が現れてきているようですし、彼らが買い占めに走らないためにも何らかの数量制限をすべきではないかと思います。それがどうやったら可能になるのか、というのが次の議論になると思いますが。
投稿情報: アキヒト | 2009/05/23 00:29
「マスクはインフルエンザ防止に逆効果?」というキャッチコメントに興味を惹かれてこちらを拝見させて頂きました。読者のコメント数を集めることは作者の意図したものだと思いますが、ちょっとまとめが弱いかなと思ったのと、個人的に少し不快だったのでコメントを残します。
「本当に必要なのは正しい情報を手にすることを心がけ、それに基づいて行動することではないでしょうか」という文面で結論を出しているようですが、これでは、キャッチ文に対して結論を出していないのではないでしょうか?
しかも、キャッチ文が「マスクの使用は逆効果」という文面で、人の興味を惹くように作られていますが、実際は「マスクの使用方法」「購入方法」の問題であって「マスクの効果が逆効果である」という内容とは全く違う話であるように思います。
「正しいマスクの着用には効果があるが、使用方法によっては逆効果になりかねないので使用方法に注意しましょう」という話であれば好意的に理解できます。
こういう話題は好きですし、キャッチな文章についても手にとって読んで(個人的な見解の是非はおいておくとして)納得できる内容であれば良いのですが、センセーショナルなキャッチ文章で通りすがりの人を捕まえて、内容が中途半端な見解では世間のマスゴミと同じやり方になりますよ?そこに関して少し不愉快に感じました(俺釣られた?って事です)。
また、マスク自体に感染に効果がないということはありません。WHO関連でググっていただければ、効果がある旨の表記が見つかるはずです。
ニュースサイトからコピペしただけのどうにもならないブログと異なり、こちらは積極的にご自分の意見を主張されているのでそこには好感を持ちました。Blog楽しんでください。
投稿情報: Moemaster | 2009/05/23 01:19
Moemaster さん、コメントありがとうございます。
そうですね、タイトルは意図的に付けた面もあります。ただ、モラルハザードによって間接的に感染リスクを高めかねないという点で、「予防には逆効果」という表現も可能ではないかと感じています。しかしどう感じるかは読者の皆さんなので、誤解を招く表現であったことは率直に謝罪したいと思います。
> 「本当に必要なのは正しい情報を手にすることを心がけ、それに基づいて行動することではないでしょうか」という文面で結論を出しているようですが、これでは、キャッチ文に対して結論を出していないのではないでしょうか?
この点についても、自分自身のアドバイスが達成されていなかったと思います。「とにかくマスク、マスク」の風潮にカウンターを出すだけで、次にちゃんと支えるような議論ができていなかったですね。反省します。
ともあれ、マスクが一斉に店頭が無くなったり、買い占めた(と思われる)マスクを路上で高値で売りつける輩が出て来ていることに対しては、やはり釈然としないものを感じます。少しでもこの記事が呼び水となって、行き過ぎた行動を考え直すきっかけとなってくれれば良いのですが。
投稿情報: アキヒト | 2009/05/23 01:41
マスクの着用として一番いいのは
感染してしまった人のみがマスクをする事ですね。
そうすれば売り切れることもない
でも感染してしまった人をどう特定してマスク?
感染者のみマスクをしている状態では多少自覚症状があっても他の人の目を気にしてマスクをしない人もいるんいでは?
そういう心理的な部分も考えて、皆でマスクをするということはいいんじゃないですか?
すでに感染してしまったものの自覚症状がなくて分からずに外出する人にもマスクを着用させるには全員が着用すればいいんです
なので、後予想される「強毒」化や、秋以降の第2次流行荷備え、あらかじめ自主的にマスクを準備して
その時が来たら、みんなでマスクをしましょう
一番大事なのは感染者にマスクを付けさせること
そのための環境を作ることだと思います。
非感染者に効果がないって事はどうでもいい
投稿情報: got | 2009/05/24 19:01
N95マスクについて一言だけ。
「正しく」装着するのは一般人にははぼ不可能です。
傲慢でもなんでもなく、ほぼ不可能と言い切ります。
興味があれば
「N95 フィットテスト」で検索してみて下さい。
「ほぼ」とつけたのは、もしかするとエアロゾル発生器やフードなど購入して本当にフィットテストする人が出てくる可能性が0とは言えないからです。
投稿情報: パディ | 2009/05/26 09:14