というわけで遅くなりましたが、先日参加したイベント「コムスコアさんとインターネット視聴率の裏側を覗いてみる勉強会」のお話などを。
■ インターネット視聴率の裏側勉強会 7/8 @渋谷パソナテック (Reason to be cheerful, part 2)
comScore さんと聞いて「ああ、米国のインターネット視聴率調査会社ね」と分かる方は、残念ながらまだそれほど多くないと思います(日本ではネットレイティングスさんが競合として有名ですね)。しかしネット界隈ではかなり名の知られた存在で、海外の関連ニュースでは頻繁にその名前を目にするほど。ちなみに日本法人設立当時にCNETで紹介された記事がこちら:
■ 米調査会社のComScoreが日本上陸--世界戦略を問う (CNET Japan)
こちらの記事にもご登場されている、コムスコア・ジャパンの代表取締役・佐藤英丸さんにお話を伺う、というのが先日のイベントでした。
イベントでは、全世界のインターネット人口の推移(現時点で11億人超!)やグローバルブランドがアジアでは苦戦している(アジア諸国ではローカルサイトが頑張っている例が多い ex. Mixi、百度、Naver)という話、ユニークユーザー数の多さでギネス認定されたブログを持つはずの Ameba が(ry ... などなど面白い話が聞けたのですが、個人的には comScore さん自身のビジネスに関する話に興味を惹かれました:
- 世界規模でインターネット視聴率調査をしているのは、comScore とニールセンぐらい。理由は「儲かるビジネスではない」から。
- まずデータを集めるのが大変。comScore ではバナー広告によるリクルートでパネル(データ収集に協力する人々)を集めており、現在370万人に収集ソフトをインストールしてもらっているが、その中からデータとして使うのは200万人ぐらい。なぜ少なくなるのかというと、クレンジングや平準化を行う必要があるため(例えば偶然ネットカフェのPCに収集ソフトがインストールされてしまった、などの場合にはそのデータをはじく必要がある)。
- クレンジングには過去の知見を活かしている。例えば comScore ではデモグラフィックな情報(性別や世代など)も把握しているが、成りすましが行われる場合がある(ネカマなどですね)。それを防ぐために蓄積された膨大なデータと比較して、異常だと認められた場合にはそのデータは参照しない。
- そんなこんなで、集めた生データをクライアントが閲覧できるようになるまでには、およそ2週間の作業時間がかかる。
- さらに母集団に関するデータにも誤りがあってはいけないので、3ヶ月に1度、母集団調査も実施している。
- その他、限られたサンプルからより正しい推定値を得るため、様々なデータ分析の手法を駆使している。そんなわけで、参入しようと思っても簡単に参入できる世界ではない。
- Google ですらデータ分析の専門家を雇うのには苦労しているそうですから、これも参入障壁の1つとして作用しているのかも)。
- ちなみに日本でデータ収集ソフトをインストールしてくれているのは約4万人。その中から約1万人をパネルとして使っている。
ということで、インターネット視聴率に限らずあらゆる調査ビジネスに言えることですが、単にデータを拾い集めて終わりという仕事ではないわけですね。また実際に、comScore のクライアントだけが見ることのできるデータ閲覧画面を見せていただいたのですが、様々な切り口からデータ分析を行うことができるようになっていました。データを集めるだけでなく、過去データも蓄積して閲覧しやすいようにするという面でもかなりのコストがかかっているはず。
ではそのコストが正しく認識され、喜んで対価(ちなみにデータ閲覧+相談料込みで数百万円になるとのこと)を払おうというクライアントばかりかというと、そうでもないようで。当然の話ですが、comScore が苦労して集めたデータの価値を理解する企業でないと、「もっと安い料金のところで十分だ!」となってしまうでしょう。さらに気になったのは、イベントの中で佐藤さんが
他のアジア諸国の企業の方が、(comScore が提供するような)データをマーケティングに上手く活用できているように感じる。それは海外の大学では、データをマーケで使うトレーニングを実施しているところに一因があるのではないか。
という趣旨の発言をされていたこと。確固たるエビデンスがあるわけではないのですが、特にウェブサイトのアクセス分析という場合、確かに「そんなデータが何の役に立つんだ?」という反応をする日本企業がまだまだ多いように感じます。現場がその重要性を理解していても、上の人々が「そんなもんにカネを使えるか!」という反応をする、というケースもあるでしょう。
以前から『分析力を武器とする企業』という本をご紹介していますが、この本も指摘している通り、「価値のあるデータがそこにある」というだけではダメなわけですね。その価値を(組織全体で)認識し、使い方を習得し、必要な分析を行って、実際の行動につなげていく――こうした一連の流れが組織の中にできていないと、まさしく「猫に小判」という状況になってしまうと。世界全体が「まだまだウェブ関連の統計データは活かせていない」という状況なら安心なのですが、日本企業だけが遅れを取るということになりはしないか、一抹の不安を感じます。
結局、comScore のような企業が市場を広げるためには、社会の中にデータ分析の専門家を根気強く育てていくしかないのかもしれません。海外では企業が大学に資金援助するというケースが珍しくありませんが、例えば comScore が日本のどこかの大学にお金を出して冠講座を開いてしまう、という手段もありなのではないでしょうか。実際に comScore は「データをどう使うか」というクライアントからの相談に乗っているそうなので、そこで得られたノウハウを授業にしてしまう、ということができるかもしれません。もちろん本来は、社会全体が現代におけるデータ分析の重要性を理解して、専門家の育成を支援する方向に動かなければならないわけですが……日本がそんな方向に舵を切るころには既に手遅れになっていそうな気がするので、ありえないとは思いつつ、comScore さんに期待してしまう次第です。
ちなみにイベントでは僕を含め、Twitter で中継を行っていた方々がいらっしゃったので、Twitter 検索で #comscore を検索していただければ生ログを確認できると思います。
こんにちは、同じアジャイル広告ネットワークに所属しているInsight for WebAnalytics(http://ibukuro.blogspot.com)の衣袋(いぶくろ)と申します。
実は3年前からネットレイティングスが冠でデジタルハリウッド大学院にインターネットマーケティングにおけるデータ分析基礎と同アクセス解析実践という二つの授業が大学院で存在しています。授業は私がやっております。comScoreさんは多分やらないかも(笑)
残念ながら今年からネットレイティングスの冠がなくなり、衣袋個人のボランティア状態です。
昨年私が出したネット視聴率白書2008-2009では、どうネット視聴率を活用するかなんて本も出してますが、マーケットは狭い訳で、なかなかビジネスにならないというのが本音でしょう。
最近ではアクセス解析イニシアティブという団体を立ち上げて(http://a2i.jp/)、アクセス解析の普及活動にも取り組んでいますが、このご時勢なかなかお金は出てきませんけど、頑張っていますので、応援してください(笑)。
取り留めのないコメントとなりましたが、ご容赦を。
投稿情報: 衣袋宏美 | 2009/07/11 01:43
衣袋さん、コメント&情報ありがとうございます!
なるほど、ネットレイティングスさんでは既に冠講座を設置された経験をお持ちなのですね。この不況下では、なかなか直接的な成果の見えづらい施策にお金を出すというのは難しいのでしょうが……なんとか支援を復活させて欲しいところです。
> 昨年私が出したネット視聴率白書2008-2009では、どうネット視聴率を活用するかなんて本も出してますが、マーケットは狭い訳で、なかなかビジネスにならないというのが本音でしょう。
なるほど。本文で述べたように、こうしたマーケットが拡大するか否かというのは、おおげさに言えば日本企業の競争力に関係してくる話だと考えています。文句を言うばかりの身でお恥ずかしいのですが、衣袋さんのように実際に行動されている方々を応援しておりますので、今後とも頑張って下さい!
投稿情報: アキヒト | 2009/07/12 06:37