翔泳社様より、『マーケティング脳 vs マネジメント脳 なぜ現場と経営層では話がかみ合わないのか?』という本をご献本いただきました。ありがとうございます。ということで、書評がてらご紹介しておきたいと思います。
本書を一言で言えば、マーケティングの視点から企業戦略を考える本といったところでしょうか。著者はアル・ライズ(父)とローラ・ライズ(娘)の2人なのですが、アル・ライズという名前に聞き覚えのある方もいらっしゃるでしょう。マーケティング理論の1つである「ポジショニング」を考え出した人物の1人で、昨年も『ポジショニング戦略』の新版が出版されたばかりです:
『ポジショニング戦略』はもともと1970年代に書かれた本だったのですが、『マーケティング脳~』の方は完全な最新作(偶然ですが両書とも25章から構成されています)。レクサスや iPod など私たちに馴染みの深い事例も登場し、歯切れの良い文章と相まって、かなり分かりやすい一冊になっています。
それでは詳しい内容を、というと……うーん、まずはタイトル(と帯)が誤解を招くかもしれません。確かに右脳vs.左脳という話は出てくるのですが、別に科学的なエビデンスが羅列されるわけではなく、マーケティングvs.マネジメントという対立軸が置かれているだけだと考えて下さい。またマーケティングとマネジメント、両方の主張をバランス良く紹介した上でマーケを推すというより、「なんでマネジメントはマーケティングの素晴らしさを理解しないんだ!?」というのが一貫した論調。様々なブランドの成功を「マーケが良かったから」(逆に失敗は「マネジメントが悪かったから」)で言い切ってしまっている部分も多々あり、マネジメント系で日々頑張っている方には「そんなに話は単純じゃないんだよ!」とつぶやきたくなる本かもしれません。
また正しいものとして位置づけられるマーケティング脳(マーケティング的な考え方)についても、『ポジショニング戦略』を読まれた方や、既にマーケ関係の仕事をされている方なら「前にも言われたことがあるな」と感じる点が多々あるはず。ならばそれをどう「マネジメント脳」に説明すれば良いのかというポイントが知りたい、となると思いますが、それについてはほんの少し紹介されているだけ。中~上級の知識を期待されている方には、本書は不要だと思います。
ただし。簡単な話を難しくしてありがたみを増そうという本が多い中で、理論のエッセンスだけを抽出すると共に様々な事例で視覚化してくれる本書は、桁違いに分かりやすいです。ともすれば「分かりやすい」は「低レベル」として敬遠されてしまいがちですが(事実そういうことも多いのですが)、本書で述べられるのは力強い理論に基づいたアドバイスであり、決して内容が薄いわけではありません。本書に書かれていることを真面目に実行するだけでも、大きな効果を手にできることでしょう。またアドバイスの分かりやすさは行動に直結します。「そんなこと知ってたよ」と感じる方々にとっても、改めて行動を促してくれる一冊になるのではないでしょうか。
というわけで、「なーんだかコンサルのプレゼンに騙されてるような気がするなぁ」と感じつつも、騙されたと思って一度試してみるか、というのが本書の正しい読み方……ではなく「使い方」だと思います。少なくとも、読んだだけでは何の意味も無い本。しかし使おうと思えば、どの章にも使い道がある本だと思いますよ。
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