国際空港にも競争があります。より多くのお客に利用してもらうため、最近では無料Wi-Fiや無料電源などといったサービスを導入する空港が増えているわけですが、ロンドンのヒースロー空港でこんなユニークな試みが始まったとのこと:
■ Heathrow Airport installs writer in residence (Springwise)
空港に住み込みで作品を書く作家が登場した、という話。この記事を書いているうちに、日本語のニュースも出ていました:
■ 英著名作家、「ヒースロー日記」を空港ターミナルで執筆中 (AFPBB News)
空港に住む男というと、映画『ターミナル』を彷彿とさせますが、具体的にはこんな試みだそうです:
ロンドン(London)のヒースロー空港(Heathrow Airport)のターミナル内に作家が1週間滞在し、空港内での出来事や感じたことを執筆するという試みが行われている。同空港が19日発表した。
同空港の「常駐作家」に任命されたのは、『プルーストによる人生改善法(How Proust Can Change Your Life)』の著作で知られる著名哲学者のアラン・ド・ボトン(Alain de Botton)氏。空港の第5ターミナルのチェックイン・カウンターのあるエリアにしつらえられたデスクに、自分のラップトップパソコンを持ち込んで執筆活動を行っている。パソコンに打ち込んだ文字は、背後のスクリーンに表示される仕組みだ。
ということで、ある種のインスタレーション的に、空港利用客を楽しませるための演出のようですね。しかし書かれている作品は本物で、9月に"A Week At The Airport"というタイトルで出版することが決定しているとのこと。しかし1週間で、しかも仕事ぶりを見られながら執筆活動ができるとは、さすがプロの作家さんといったところでしょうか。
この試み、単に「空港で本物の作家が、しかも住み込みで、リアルタイムで作品を書いている!」という驚きに加え、こんな実利(?)もあるそうです:
Besides publishing at the speed of light and providing Heathrow with some lovely literary publicity, the endeavour taps into two ongoing consumer trends. First off, the status stories element: passengers and staff members are invited to share their stories with De Botton, and have a chance of being immortalized in A Week at the Airport. Secondly, a generous dose of free love: Heathrow will be handing out 10,000 copies of De Botton's diary to passengers travelling through the airport. Smart marketing move by Heathrow, and one for any other brand to be inspired by: be delightful, be relevant, be generous.
超速で作品を生み出し、ヒースロー空港を文学で有名にするという効果に加えて、この試みは2つの消費者トレンドにも合致している。まずは「自分のストーリーを求める」というトレンド。乗客やスタッフはド・ボトン氏と自由に話し、彼らの体験を共有することができ、書き上げられる予定の作品"A Week At The Airport"の中で取り上げられるかもしれない。第2に「無料ビジネス」というトレンド。ヒースロー空港は作品の1万部を、同空港の利用客らに無料で配布することを予定している。実にスマートなマーケティング活動だ。「楽しく、適切で、気前がよい」という点は、他のブランドの参考になることだろう。
というわけで、実は双方向性もある試みですよと。もちろん1週間で出会う人々全てを登場させるわけにはいかないでしょうが、自分が作品に影響を与えられるかもしれない、自分の話が描かれるかもしれないというだけで、作品への興味はずっと高まると思います。
単に「作品が生まれる過程を見せる」というだけであれば、ネットを通じていくらでもできる話。ある時期に、ある場所で、おなじ状況を共有し、その結果が形として残る――実は現代において、もっとも再現が難しい価値を提供しているイベントかもしれません。1週間以内にロンドンに行く予定のある人、はごく少ないと思いますが、ちょうど予定があるよというラッキーな方はぜひご確認下さい。
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