ちょっとオススメされたので、発売中の横井軍平本2冊を読んでみました。『横井軍平ゲーム館 RETURNS』と『ゲームの父・横井軍平伝』です:
横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力 横井 軍平 牧野 武文 フィルムアート社 2010-06-25 売り上げランキング : 226 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ゲームの父・横井軍平伝 任天堂のDNAを創造した男 牧野 武文 角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-06-11 売り上げランキング : 761 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
発売日では『ゲームの父』>『ゲーム館』の順になるのですが、実は『ゲーム館』の方は1997年に発売されたものの復刻版。オリジナルは絶版状態で、ヤフオク等で数万円の値がつくこともあったとか。というわけで、『RETURNS』は横井軍平ファンの方々にとって待望の一冊であるようです。
ちょっと、その前に横井軍平って誰?という話ですが、彼の名前は知らなくても「枯れた技術の水平思考」という言葉は知っているという方は多いのではないでしょうか(恥ずかしながら自分もその一人でした)。「最先端ではない、既に普及済みの技術を工夫することで新しいものを生み出す」という態度のことですが、これを唱えたのが横井軍平氏。実はかつて任天堂の中で、ゲーム&ウォッチやゲームボーイなど様々なヒット商品を生み出した人物です。
そんな古いヒット商品の開発秘話を聞かされても……と思われるかもしれませんが、これが実に面白い。個人的に一番感心したのは、横井氏が既にゲームボーイの時代から、いずれビデオゲーム開発がCPU処理能力の競争・画面作りの競争になるというのを見越していた点。そんな「ゲーム内容ではなく、技術の能力で勝負する」という態度を、彼は「アイデア不足の逃げ道」と切って捨て、またそのような競争に乗ってしまっては任天堂の勝ち目がないことを看破していました。ところが実際は……ご存知のように、ビデオゲームはまさに「CPU競争」「色競争」が主流になり、コアなゲームファン以外にはついていけないという状態が生まれてしまったわけですね。
で、そのアンチテーゼとして任天堂から「Wii」というマシンが登場し、一般の人々にも受け入れられて大ヒットを記録するという、まさに横井氏が思い描いていたような状況が実現しつつあると。このエピソードだけでも、彼が物事を正しく見通す力を持っていたことが分かるでしょう(※残念ながら横井氏は、1997年の『ゲーム館』刊行直後に事故で亡くなられてしまい、PlayStationシリーズの興亡やWiiの登場は当然ながら目にしていません)。そんな人物がどんな哲学を持ち、商品開発に臨んでいたのかという貴重な話を読むことができるのが『ゲーム館』と『ゲームの父』になります。
いやいや、卓越した人物の自伝を読んでも、その人物になりきることはできないよって意見には同意です。『ゲーム館』や『ゲームの父』も同様で、これを読んだからといって横井軍平2世になることは難しいでしょう。しかし彼のアプローチは非常にシンプルで、何というか「あぁ、言われてみればその通りだよなぁ」と思わせられるようなエピソードが多いんですよね。優れたアイデアとは得てしてそんなものかもしれませんが、一歩や二歩だけでも彼に近づけるようなヒントを、数多く与えてくれるのがこの2冊だと思います。分量的にも数時間で読めるものですし、今週末で読まれてみてはいかがでしょうか。
ただ『ゲーム館』も『ゲームの父』も同じ著者(牧野武文氏)で、ほぼ同じ情報が網羅されていますので、よほどの横井軍平ファンという方でなければ両方を読む必要はないでしょう。横井氏が開発した「商品」を中心に語っているのが『ゲーム館』、横井氏という「人物」を中心にしているのが『ゲームの父』になりますので、興味のある方向性の本を選ばれると良いと思います。
そうそう、こんなイベントも開かれるそうですので、本書を読んで興味が湧いたという方は参加されてみては?:
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