2年前の12月、DARPA(米国防高等研究計画局)が「赤い風船を探せ!」というコンテストを開催したのを覚えているでしょうか。米国内のどこかに設置された10個の赤い風船を探し、その正確な位置を全て回答できた最初の人物(当然チームも可)に賞金4万ドルを与えるというもの。参加したのは何と4,000チーム以上。そして優勝したのはMITチーム、開始約9時間弱での達成でした:
■ 「風船10個を見つけて、4万ドルをゲットしよう!」コンテスト、いよいよスタート (シロクマ日報)
■ DARPAの「赤い風船探しコンテスト」、開始後わずか9時間弱で優勝者決定 (Polar Bear Blog)
で、優勝したMITチームがどんな作戦を使ったのか?という点ですが、これも2年前の記事で解説していました。蓋を開けてみれば簡単な話で、正確な情報をもたらした人物に賞金(2,000ドル)を与えるというもの。ただし正確な人物をもたらした人物を紹介した人物にも1,000ドルが支払われ、さらにその人物を紹介した人物には5000ドルが支払われる……というちょっとした捻りが加えられていました:
■ DARPA「風船探しコンテスト」、MITチームの勝利は「フリー」の限界を意味するのか? (シロクマ日報)
そしてこの「風船探しコンテスト」で優勝した当事者を含むMITの研究者らが、「インセンティブを与えて人々を動員する」という点の重要性について、改めて研究論文を発表したとのことです:
■ Searching for balloons in a social network (MIT News)
ちなみに研究論文自体はこちら(※有料の会員登録が必要):
■ Time-Critical Social Mobilization
The World Wide Web is commonly seen as a platform that can harness the collective abilities of large numbers of people to accomplish tasks with unprecedented speed, accuracy, and scale. To explore the Web’s ability for social mobilization, the Defense Advanced Research Projects Agency (DARPA) held the DARPA Network Challenge, in which competing teams were asked to locate 10 red weather balloons placed at locations around the continental United States. Using a recursive incentive mechanism that both spread information about the task and incentivized individuals to act, our team was able to find all 10 balloons in less than 9 hours, thus winning the Challenge. We analyzed the theoretical and practical properties of this mechanism and compared it with other approaches.
一般的に、ウェブは大勢の人々を動員して、これまでには無かった程の速度・正確性・規模で何らかの目標を達成することを可能にするプラットフォームだと考えられている。DARPAはウェブが持つ社会的動員力を検証するために、米国内のどこかにある10個の赤い風船の場所を探すというコンテスト「DAPRAネットワークチャレンジ」を開催した。「タスクに関する情報を拡散すると同時に、そのタスクに参加しようというインセンティブを個人に与える」という、再帰的インセンティブ・メカニズムを使うことで、我々のチームは9時間弱で10個全ての風船を見つけることに成功、優勝を果たすことができた。我々はこのメカニズムに関する理論的および実践的性質について分析を行い、他のアプローチとの比較を行った。
つまりポイントは「インセンティブがあること」に加えて「インセンティブがあるという情報が拡散すること」にもあったと。確かに「風船を見つけたら分け前やるよ!」だけの場合だと、「ならオレだけで見つけて報酬を手にしよう」という反応が起きてしまうかもしれません。よく考えたらこの「紹介者にも~をプレゼント」手法、通販などで目にすることがありますし、グルーポンに代表される「~分以内に参加者を集められたら値引き!」という手法にも通じるものがあるでしょう。
研究者の一人、Alex “Sandy” Pentlandさんはこんなコメントを述べています:
Alex “Sandy” Pentland, director of the Human Dynamics Laboratory in the MIT Media Lab, says finding the right incentive is essential to mobilizing large groups of people on a given task. With the right incentives, Pentland says people can work across social networks to accomplish goals beyond balloon searches.
MITメディアラボ・人間工学研究所所長のアレックス・"サンディ"・ペントランドは、ある目標に対して大勢の人々を動員するためには、正しいインセンティブを見つけることが欠かせないと語る。正しいインセンティブがあれば、人々はソーシャルネットワーク上で風船探し以上のゴールを達成することができるだろう、というのだ。
この「正しいインセンティブ」という話ですが、面白いことに、Twitter上での関連ツイートを分析してみたところ、「賞金は赤十字社に寄付する」と宣言するという戦略を取ったジョージア工科大学チーム(惜しくも2位だったそうです)や、イベント開始時点でより多くのフォロワーを持っていた個人/チームより、最終的にMITチームの方がTwitter上での情報拡散を持続させることができたのだとか。しかもMITチームの優勝がアナウンスされてからは関連ツイートは激減、彼らのインセンティブ・メカニズムがツイート発生を後押ししていたことが証明された形になったそうです。
ソーシャルメディアは大きな社会動員力を持っている――しかしインセンティブの設計次第で、その力がより強まることも、逆に弱まることもあるわけですね。考えてみれば当然の話ですが、Twitter等の実例を通じてソーシャルメディアの情報拡散力が認識された今、インセンティブ・デザインの研究がより盛んに行われてゆくことになるのかもしれません。実際に上記のペントランド氏は、災害時にごく短い時間で人々に(救援活動のような)行動を取ってもらうにはどうしたら良いか?というような考察へと向かう可能性を示唆しています。新しいグルーポンを作るだけ、あるいは国にとって都合の良い動員を促すだけという不安もありますが、社会にとって良い結果をもたらす研究になることを期待しましょう。
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