ポール・グレアムが創業し、「養成型」のVCとして日本でも名前が知られるようになったYコンビネーター(Y Combinator)。彼らのサイトにSOPAを支援した米エンターテイメント産業を挑発するような一文が掲載され、賛否両論を招いています:
■ RFS 9: Kill Hollywood (Y Combinator)
「ハリウッドを殺せ」という攻撃的なタイトルで、その終焉を加速させるようなスタートアップに投資するという姿勢が示されています。3行目から終わりまでを適当に訳してみましょう:
どうやって映画産業やテレビ産業を殺すのか?より正確に言えば、何が彼らを殺すのだろうか?恐らくは、彼ら自身が「殺される」と感じているもの(ファイル共有サービス)によってではないだろう。映画やテレビを殺すのは、より良いエンターテイメントなのだ。であるとすれば、答えは自分自身に聞けば良い。20年後、人々はどんな楽しみ方をしているのだろうか?
いくつかの答えが考えられるだろう。コンテンツをつくり、配信するための新しい方法が生まれる(ゲームなどの新しいメディアが利用され、よりインタラクティブな形となる)。あるいはソーシャルサイトやアプリ(それは映画やテレビなどとは全く異なる存在だ)が流行し、彼らと観客を取り合うようになる、といった具合だ。最良のアイデアは、一見すると映画やテレビ業界を手助けするようなものに感じられるだろう。例えばマイクロソフトがIBMに技術を提供しているうちに、PC業界を乗っ取ってしまったような話である。グーグルがヤフーに対して行ったのも同じ話だ。
人々がただショーを観るのではなく、より体を動かし、より友人や家族と過ごすようになるのは素晴らしいことだ。そしてそうした状況は、現実のものになってゆくだろう。私たちはそんなアイデアを聞いてみたい。しかし20年後に人々がどんな楽しみ方をしていようと、その未来は既に決まってしまっている。成功とは生み出すものというより、発見するものなのだ。歴史を変えることはできない。しかしその進みを早めることはできる。
あなたはどんなエンターテイメントを築くことができるだろうか?
既存のエンターテイメント産業を潰すのはファイル共有、つまり既存のビジネス構造にヒビを入れるものというよりも、既存のエンターテイメントそのものを置き換えるものなのだという主張です。それ自体は目新しいものではなく、有名なところでは「破壊的イノベーション」のような理論で繰り返し主張されてきたことですが、面白いと感じたのはそうしたパラダイムシフトを既定路線であると捉えている点。それを見出し、加速させることが「成功」であると述べています。多くのスタートアップを育成してきた彼らが「成功」をこのような形で捉えていることに、興味を引かれました。
ビジネスであれ何らかの社会運動であれ、新しいものを成功させるためには世の中の状況を無視することはできません。それはいくらブルーレイが優れた技術だからといって、その価値を十分に引き出すコンテンツもないままにプレーヤーを普及させようとするようなものでしょう。従って全く新しいモデルを頭の中で組み上げるというより、現実の世界をしっかりと見極め、その中に当てはまる形を考えるようにする必要があります。
それも過去に繰り返し言われてきたことであり、今回の文章はその焼き直しに過ぎないかもしれません。しかし「生み出すのではなく発見する」という表現は、とかく「全く新しい何かをつくってやろう!」と先走ってしまいがちな感情をあらため、現実的なアプローチに私たちを引き戻してくれるものになるのではないでしょうか。
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