先日NHKの番組でも取り上げられていた「シリアスゲーム」。ゲーム体験を通じて現実世界の問題に対する理解を深めよう、という試みですが、今年のサンダンス映画祭で発表されたこの作品もその1つと考えられるかもしれません:
■ Hunger in Los Angeles | Sundance Film Festival
ニューズウィーク誌の特派員だったNonny de la Peñaさんという方が「開発」した作品。実は大勢がスクリーンで観て楽しむような映像ではなく、ヘッドマウントディスプレイとヘッドホンを通じて体験する、バーチャルリアリティ(VR)作品となります。上記のページには"Immersive Game Environment"、つまり「没入型ゲーム環境」という文言が掲げられていますね。
ではいったいどんな内容なのか、ハフィントンポストの解説を引用すると:
■ 'Hunger In Los Angeles': Virtual Reality Makes Journalism Immersive, Pixelated (Huffington Post)
Imagine you're at a food bank outside the First Unitarian Church in Los Angeles. It's a clear and hot Saturday in August. Dozens of hungry people are lining up. The woman who runs the food bank is overwhelmed. She yells people's numbers quickly. "There are too many people," one woman complains, as she stands in line, her arms crossed. Others wait patiently, but the mood is tense.
Then someone in line collapses to the ground -- a seizure. People surround him, trying to figure out what's wrong. A woman calls 911, but her English isn't great, and she has trouble communicating with the dispatcher.
Amid this pandemonium, another person runs to the front of the line to steal food and ravage supplies. Yelling, pushing ensues. The moment seems to last forever as you wait for the ambulance to arrive, to help the man on the ground.
Finally, it does. "Are you a doctor?" an EMT asks someone kneeling near the collapsed man. "Then get out of the way." The man, it turns out, was diabetic. He hadn't gotten food in time and had slipped into a coma.
ロサンゼルスにあるファーストユニオン教会の前で、フードバンク(※生活困窮者に食糧援助を行う活動)の列に並んでいるところを想像してみて欲しい。8月のよく晴れた、暑い日のことだ。お腹を空かせた大勢の人々が列をつくっている。フードバンクの女性スタッフはすっかり困り果てた様子で、並んでいる人々の数を数えている。列に並んでいた一人の女性は、腕を組んで「まったく、人が多すぎるよ」と文句を言う。他の人々は辛抱強く待っているものの、あたりの空気は張り詰めている。
すると突然、列に並んでいた一人の男性が地面に倒れた――急病人だ。人々が周囲を取り囲み、どこが悪いのか調べようとしている。ある女性が119番通報しようとするが、英語が不自由なため、電話に出た係員とスムーズに意思疎通することができない。
混乱の中、他の誰かが列の前に飛び出して、用意されていた飲食物を盗もうとする。怒鳴り声が飛び、揉み合いが起きる。救急車を待つ時間が永遠に続くかのように感じられる。
ようやく救急車が到着する。男性の側にかがんでいた人物に向かって、救急隊員が「医師の方ですか?でなければ下がって!」と叫ぶ。倒れていた男性は、糖尿病であることが判明した。何も食べない期間が長すぎたため、昏睡状態に陥ったのである。
こうした映像を体験した後で、6人に1人が空腹状態にあるという米国の現状が解説されるとのこと。映像といっても3DCGで再現されたもので、モーションキャプチャ技術を使い、登場人物は全て役者によって演じられています。つまりVR(視聴者の視点は現実空間内での動作とリンクしているので、ある意味でARと言えるかもしれませんが)を通じて現実の問題を「体験」させることで、より問題を身近に感じてもらおうという取り組みなわけですね。Nonnyさんらはこうした手法に"Immersive Journalism"(没入型ジャーナリズム)という名前を付け、他にも様々な活動を行っています:
■ Immersive Journalism
例えばこちらは、グァンタナモ基地収容所をセカンドライフ上に構築、同収容所の問題を実感してもらおうという取り組みとのこと:
セカンドライフというと懐かしい響きがしますが、教育面での活用は以前から指摘されていたことであり、ジャーナリズムへの応用も奇抜なものではないでしょう。
考えてみれば、テレビのドキュメンタリー番組等々はある意味で映像によって問題を「追体験」してもらおうというものであり、Immersive Journalismもその延長線上にあるものと言えるかもしれません。VRやARの技術/概念を取り入れることで、より視聴者に当事者意識を持ってもらえるのかどうか――その効果はこれから検証されることになるとはいえ、非常に興味深い取り組みと言えるのではないでしょうか。
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