語りつくされた感もありますが、Studygiftのことについて少し。初耳だよという方のために簡単に説明すると、いわゆるクラウドファンディングのサービスで、何らかの理由で学費が払えない学生さんに対して寄付が行えるというもの。CAMPFIREの学生版、などという例え方をされる場合も多いです。
そしてStudygiftで支援する学生第一号として選ばれたのが、Google+で一時期日本人フォロワー数第一位になったこともある坂口綾優さん。あっという間に支援が集まり、サポーター190人から95万円を集めて支援目標額を達成しました。ちなみに寄付を行った支援者に対しては、「ニュースレターの配信」や「サポーター集会への参加」といった対価(?)が提供されるとのこと。
とここまでは簡単な構図なのですが、坂口さんが成績の低下から奨学金を停止されていたこと、勉強だけでなく遊びにも力を入れたいと(感じられる文章を)書いていたことから批判も殺到。ここ数日炎上状態となっていました。ただ彼女はこうしたポイントを隠していたわけではなく、先ほどのStudygift上ではっきりと述べています。
さて、この件について個人的に感じたことを書いてみたいのですが、まず以下のポイントを前提として置きたいと思います:
- 坂口さんは「まじめな苦学生」を演じていたわけではなく、批判されているポイントもはっきりと明示していた(つまり騙してお金を受け取ったわけではない)
- Studygiftは今後坂口さんを支援するだけでなく、誰でも参加できるサービスとなる(つまり支援学生をStudygift側で事前にセレクションすることはない)
- 寄付の対価は学生が自由に決定できる(つまり「成績の良さに対してお金が支払われる」といった一定の評価基準をStudygift側で設定するわけではない)
以上の前提を置いた場合、Studygiftは「アピール力を持つ学生が、その資産をお金に変換できるサービス」であると考えられるのではないでしょうか。アピールするものは何でもよく、頑張っている姿、可愛らしい容姿、笑いのセンスなど様々なものが考えられるでしょう。しかし当然ながら、誰もがそういった資産を持っているわけではありません。従ってStudygiftは、苦学生を平等に救うサービスではなく、あくまでも「アピール」という資産を持つ学生を救済するサービスということになります。
もちろんこの状態を「前進」と捉え、少なくとも以前より救済される学生が増えたのだとポジティブに考えることもできるでしょう。しかしこうも考えられます。「優秀な学生は奨学金制度で、可愛かったり楽しかったりする学生はStudygiftで大学に通えるようになった。それでは残りの学生たちはどうするべきなんだ?」
そう考えると、Studygiftというサービスを評価するか否かは、とりもなおさず「どんな姿を大学生の理想像として示すのか」という話になるのではないでしょうか。これまで社会は「勉強するのが良い大学生だ」という考えから、奨学金というシステムを設定してきました(それが機能しているかどうかについては、ここでは別の問題とさせて下さい)。「頭の良さ」をお金に換えられるシステムをつくることで、勉強するインセンティブを生み出してきたわけですね。そしてStudygiftの場合ですが、「勉強ができない、勉強をしない学生でも一芸に秀でていればいいじゃないか」と考える人々が多ければ、同サービスは新たなシステムとして定着することでしょう。そして学生に対して「アピール力」を求め、それを追及するインセンティブを与えることになります。
いやいや何を大げさな、と思われるかもしれません。しかし実際に、Studygiftに対する批判を読んでいると「本当に救済されるべきは○○な人々だ」という主張を目にしますし、いったい大学生の本分って何なんだ?その意見をどういう形で具体化するんだ?という点は無視できないポイントではないでしょうか。まぁ実際のところは、上記のような学生たちは就職活動で有利な立場にいるはずですから、「大学では勉強しなくてもいい」的なメッセージは既に送られているとも言えますが……。ただその場合でも、お金という形で学生像の評価が可視化されるようになることのリスク/メリットについて、十分議論する必要があると思います。
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いいから黙って自分のPCに入ってるソフトウェアをリストアップして
どれだけ寄付受付アプリが含まれてるか確認してみろ
ここで重要なファクターはアピール力じゃねーんだよ
鈍感力。どれだけ自分が世の中に役に立ってないか、
どれだけ自分に貢献してくれている人間がいるかという事を
無視できる能力だけだ。
投稿情報: a | 2012/05/21 17:31
aさん、コメントありがとうございます。
残念ながら、僕のPCには寄付アプリは入っていません。しかし募金や被災地支援については、ネット以外のところで僅かながら寄付を続けています。昨年には、書籍の売り上げ45万円を日本赤十字社に寄付させていただきました。
鈍感力という点については、申し訳ありませんが仰っていることがよく分かりません。
投稿情報: アキヒト | 2012/05/21 17:45
興味深く読ませていただきました。アピール力の部分がなるほど、そういう一面もあるものだと感心しました。
ただ、何にせよ坂口さんのようにある意味失敗(炎上)してしまった場合に、後々まで悪評がつきまとってしまいそうなのが、かわいそうだと思ってしまいます。これを自己責任とまとめてしまうのは簡単ですが、彼女は成人といえどまだ学生ですし、何が危険でそうでないかといった経験という意味では(わたしの経験からで恐縮ですが)まだまだ未熟。
今後、主催者側がどのように彼女をケアしていくか、つまりそういったアピール者の保護もこの活動を続けていく上での重要なポイントになるのではないかと考えております。
乱文、突然の意見を失礼いたしました。
投稿情報: 04 | 2012/05/21 20:00
04さん、コメントありがとうございます。
今回の記事ではあえて坂口さんのケースに踏み込むことは避けて、サービスそのものに集中して考えてみたのですが、確かに今回の炎上で坂口さんのその後に悪影響が出ないか心配しています。「自業自得だ」という向きもあるかもしれませんが、炎上の一部は主催者側の対応によってももたらされたわけで、その辺りが彼女自身の責任とごっちゃにされて語られてしまうのは可哀想ですし。
その意味で04さんが仰るように、サービス云々の是非は抜きにしても、主催者側は今後彼女をケアをしてゆかなければならないと思います。
投稿情報: アキヒト | 2012/05/21 20:59